Guilt
グリフィンドール寮から少し離れた
窓からの薄い月明かりが差し込む少し広めの踊り場。
「アナタが好きです」
目の前の少女は、色白な頬を紅く染め
俯いてそう呟いた。
ぎゅっとスカートを握り、
俯きながら返事を待っている。
窓から差し込む、僅かな月明かりが自分と
少女とその周辺を薄く照らし、冬の寒さを余計に感じさせているようだった。
少女の緊張感がピリピリと伝わり、
ガラでもなくこちらまで緊張してしまって。
もう既に答は決っているというのに、何か傷つけずに
伝える方法は無いかと
頭が勝手に模索しはじめる。
少し、カラカラとした声が
のどを通って口からポツリとこぼれた。
自分が何を、どのように伝えたのか解らないが
少女は泣きそうな顔で無理矢理笑顔を浮べると
小さな言葉を残し、走って行ってしまった。
廊下の中、窓から差し込む月明かりの光筋の中
時々見えるその後姿を見つめ、
は小さく溜息を付くと壁にも垂れた。
先程の少女の泣きそうな表情が思い起こされる。
数日前、ハッフルパフ生のレイナという少女に告白をされてから
自分に対しての告白が一気に多くなった。
自惚れているわけではない。
一日の間に2人に告白を受ける日もあった。
先程の少女を入れ、この数日間で6人から想いを伝えられている。
そして自分はその少女等が勇気を出して伝えてくれた気持ちを断った。
彼女等は決って、泣き出しそうな笑顔を浮べ
『このことは忘れて』という。
中には、泣いてしまった少女もいたが
彼女らは決って笑顔を浮べるのだ。
それがたまらなく自分を切なくさせる。
忘れるわけが無いのに。
忘れて、のうのうとしていられる程
能天気な頭を持っていない。
そもそも、自分は彼女等をひきつける要素など持っていないのに。
は目を閉じて俯いた。
「よう、。相変わらずモテモテだな」
不意に聞こえた声。
何かを楽しむような、テノールバスのこの声は
顔を見ずとも解る。
は目を閉じたまま、
先程したのとは別の意味での溜息をつくと
面倒くさそうに顔を上げると目を開いた。
「・・・また盗み見か、シリウス。」
開いた視線の先、
腕を組んで壁に凭れかかっているのはシリウス。
楽しそうな表情を浮べ、コチラを見ている。
は少し睨みながら呆れた声を発した。
シリウスは小さく笑うと壁から身体を起こし、
に歩み寄る。
「盗み見なんて人聞きの悪い事云うなよ。
俺が此処を通ったのは偶然だぜ。」
そう、たまたまな。
とシリウスは付け加えてを見る。
はその小さな笑顔が浮かんだ顔を見つけると小さく息を吐き出す。
「普段人通りの少ない所に偶然通るとは、
こんな時間に一体何をしに寮から出たのかな、ブラック君」
「何監督生みてぇな事言ってんだよ。その言葉、
そっくりお前に返すぜ。君」
少しとげを含んで言ってみたものの、
しれっとして言ったシリウスには小さく首を横に振ると
グリフィンドールの入り口に向けて歩き出した。
後ろで、シリウスが笑っているのが聞こえる。
何が可笑しいんだ。
このところ、告白された後
シリウスがすぐに現れてはこの会話を繰り返しているのだ。
盗み見をしているとしか思えない。
何でこの男はこういった事に敏感なのだろう。
は合言葉を伝えた後、其処を通り抜けながらそんな事を思った。
シリウスはの後に続き談話室へ入ってくる。
は疲れたように、暖炉近くにあるソファに座った。
時計を見れば、長針が10の所で短針と重なろうとしている。
あと十分もすれば十一時になる。
僅かな暖色系のランプが薄暗く談話室を照らしている。
今の時間に談話室に生徒がいないのは珍しい事ではない。
しかし、静に感じる。きっと、毎日が雑音だらけな所為だろう。
「何だ、。部屋に戻らないのか?」
シリウスはが部屋に戻らず
ソファに座り込んでいるのを見、階段の上から声をかけた。
ランプの薄い光でシリウスの顔が薄く照らされている。
「あぁ、もう少し此処にいる」
はその顔を見上げる事無く、
目を閉じて頭をソファの背もたれに預けた。
シリウスが小さくそうか、と答えて部屋に戻っていく音が聞こえる。
カチャリと扉が閉まる音がした。
グルグルと頭の中で、自分に想いを伝えてくれた少女達の
泣き出しそうな笑顔が浮かんでは消えていく。
同時に現れるのは罪悪感。
17年間生きてきて、告白を受ける事は幾度かあった。
しかし、今回のように罪悪感に圧迫されるような感情は
出てきたことが無かった。
なぜだろう。
あの、泣きそうな笑顔が苦しくさせる。
泣くのを堪えているあの、笑顔が。
あの笑顔を作らせているのは自分なんだと思うと
余計に苦しくなる。
いっそのこと、大きな声で泣いてくれた方が良いのに。
彼女たちは自分に笑顔を向ける。
「」
物思いに耽っていたに声がかかる。
ゆっくりと目を開けると、黒い瞳と視線が合った。
「・・・シリウス、部屋に戻ったんじゃないのか」
シリウスは曖昧な笑顔を見せると、
両手に持っていたカップのうち、一つをに渡した。
中身は温かいミルクティー。
紅茶のいい香りが鼻腔を擽った。
「何かお前悩んでるみたいだったからな。
下手だが、リーマスの紅茶をちょっと失敬してきたんだ。
まぁ、リーマスほど上手くは無いが、飲めよ」
シリウスはそう言うと、
の前のソファに座る。
シリウスは一口、ミルクティーを飲んだ。
も其れを見ると、一口含む。
紅茶の香が悩んでいたものをすっぽり覆ってくれるかのように
喉を通っていく。
ただ、そのミルクティーは少々味が濃く。
ミルクのまろやかさはまるで無かった。
は小さく苦笑いする。
「・・・拙い」
「文句有るんだったら飲むなよ」
シリウスもこの味は失敗だ、と思ったらしく
眉間には数本の皺ができていた。
それがからの文句の所為なのか、
自分の腕の悪さなのかはわからないが。
ミルクティーの湯気がユラユラと揺らぐ。
暖炉の中の小さな炎はパチパチと音を立てていた。
「・・・あんま気にするなよ、」
突然シリウスが呟く。
は吃驚してシリウスを見た。
シリウスはティーカップを両手で持ち、此方を見ている。
「・・何を?」
「お前、告白断った事について罪悪感を感じてるんだろ」
「・・・・・」
何で、解るんだろうと思った。
黒い瞳が自分を見ている。
心を読まれた気分だ。
はミルクティーに視線を落とす。
「罪悪感を感じないほうがどうかしてるよ。」
「・・・・」
「どうして、彼女たちは笑うんだろう。
僕は彼女達を傷つけてるのに・・・・」
ほら、またあの笑顔が浮かぶ。
視線を落としたをシリウスは見つめた。
シリウスはが告白の後、決ってつらそうな表情を見せるのを知っていた。
だから、が呼び出されたと知るとその場所へ偶然を装って行った。
自分がいることを知れば、落ち込む時間は無いだろうと思って。
だが、それも徐々に蓄積されていくようで
彼は、つかれた表情を浮べている。
「・・・それは違うんじゃないか」
「・・?」
シリウスはティーカップを机に置いた。
はシリウスの声に、顔を上げる。
シリウスはソファに深く座っていた。
「傷つけているって、やつさ。
あいつ等はお前が好きで、告白したんだろ。
それの結果がどうであれ、自分の想いをぶつけられたんだ。」
「でも、泣きそうになってる」
シリウスは小さく笑った。
「自分の想いが玉砕したら泣きたくなるだろ。」
「・・・・」
「けどな、あいつ等が笑うのは
気持ちを伝えられてすっきりしたからなんだよ」
はハッとしたように目を開く。
シリウスは口角を上げて微笑んだ。
「悲しいのもあるけど、傷ついて泣きそうな
笑顔を浮べるんじゃないんだ。。」
「・・・・・」
は小さく頷いた。
目頭がツーンとするのは、きっと気のせいだ。
さっきまで罪悪感で押しつぶされそうになっていた胸は
今ではすっきりと軽い。
まったく罪悪感が無いといえば嘘になる。
しかし、先程とは全く違っていた。
「そっか・・・有難う、シリウス」
「どういたしまして」
流石だと思った。
流石というか、伊達に百戦錬磨であるわけではないなと。
シリウスは、ちゃんと気持ちをわかっているのだと思った。
それが女好きだといわれていても。
「もうすぐクリスマスパーティーだからな。
だから告白が増えたんだよ」
「クリスマスパーティー・・」
リーマスから話はきいていた。
ダンスパーティーがあるそうだ。
目当ての相手を誘い、一緒に踊る。
シリウス曰く、ダンスパーティーが過ぎれば、
落ち着くだろうということだ。
やはり、シリウスは凄いと思う。
はミルクティーを一口飲んだ。
やはり、味は濃かった。
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