Presentiment
薄い月の光が差し込む暗い部屋の中、
不自然に浮かぶ、青白い小さな炎がユラユラと揺らぐ。
炎の前に立つ青年――セブルスの無表情な顔が薄く照らし出された。
その青白い小さな炎は空中に浮かび、セブルスの丁度目の前ほどで
少し、大きめに揺れた。
『いよいよだ・・・セブルス。あのお方の下に
クラッブ族とゴイル族が加わった』
その光の揺れにセブルスの顔に当る青白い光も揺れ、
同時に低く、冷たい声が響いた。
ぼんやりとした鈍い音だけが辺りを包む。
「・・・スリザリン出身者だけを選んでいるのですか」
セブルスは肩にかかる長い髪を煩わしそうに手で掃うと
目の前でユラユラと揺れる炎に殆ど口を動かさずに問う。
見え透いた、単純な質問だったけれど。
青白い炎からは、喉の奥で笑うような声がこぼれる。
この声を発信している人物は今、どのような場所で何を考えているのだろうか。
セブルスは冷たい頭の端っこでそんなことを考えた。
『スリザリン出身だけでなくとも、純潔で高貴であれば仲間にするつもりだが?』
「・・・実際、その枠に当てはまるのはスリザリン出身の一族だけだった、ということですか」
『フフフ・・・まぁ、そんな所だ。』
淡々とそんな感じの会話だけがやりとりされる。
ゆっくりとした口調の2人は低い声で静に喋った。
セブルスは無表情のまま黙り込む。
青白い炎は小さく揺れると、また言葉を落とした。
『もうすぐだ、セブルス。お前もあのお方の下でその力を発揮する時が』
炎が、ゆっくり笑った気がした。
実際、そんな事は無いのだけど。
炎の向こうの人物は確かに笑顔を浮べている。
酷く、歪んだ心無い笑顔で―――
「・・・楽しみにしていますよ。
ルシウス先輩――――。」
小さく呟かれたその言葉に、炎の奥の人物、
ルシウスは笑みを濃くすると炎を消した。
ジュッという、まるで水に消されたかのような音を立て
炎は光を消した。
辺りは月の光だけが差し込む薄暗い世界。
セブルスはハッ、と小さく息を吐き出し
ベッドにあお向けで倒れこんだ。
カーテンを閉めていない窓の外からはほんの少し欠けた月が暗闇の中、
恍惚と光を放っている。
セブルスはその月を見つめると目をきつく閉じた。
胸の奥がムカムカする。
気分は最悪だ。
仲間にされるのが楽しみ?
笑い種だ。
確かに闇の魔法には興味がある。
だが、世界を征服しようと何が面白いのだ。
媚びるのはゴメンだ。
むかつく胸を手で押え、ゴロンと寝返りを打つ。
月の光に背を向け、暗闇の中小さく目を開いた。
同時に、ほんの少し恐怖感が生まれる。
とうとう奴等は動き出した。
このまま私の傍にがいれば間違いなく彼は奴等の餌食になる。
なにかが、第六感と言う物を信じたりはしないが
何かが胸の奥で告げている。
警告音が響く。
このまま傍にいさせたら、危険だ。
ぎゅっと目を瞑る。
目を閉じた暗闇の中、の蒼い綺麗な瞳が浮かんで胸を締め付けた。
「・・・」
あの蒼い瞳に何度すくわれただろう。
暗闇にいた自分に差し込んだ一筋の光。
それを今、自分は突き放せるのだろうか。
・・・否、突き放すのだ。
嫌われる為の方法ならいくらでも知っている。
大切な友を、闇側に落としてはいけない。
不思議な力を持つ彼は、きっと奴等の手に落ちれば真っ先に殺される。
良くて、操られるか。
そうすればあの綺麗な瞳はもう、開かない。
それはさせてはいけない。
絶対にいけないのだ。
「・・・明日は満月か・・・」
小さく呟いた言葉は、部屋の中に静に溶けていった。
「うーん・・・」
前日のダンスパーティーが嘘のようにまったりとした
土曜の昼下がり。
外には雪が降り積もり、吹雪続きだったこのごろには珍しく
日が差し込んで、窓辺のゆきはキラキラと光っている。
ぬるま温かな、少しかび臭い図書室で、
リーマスとはマグル額の課題に勤しんでいた。
リーマスは持っていた羽ペンを羊皮紙の上に投げ置き、
ダルそうに机に突っ伏す。
「どうした、リーマス」
は羽ペンを動かし、目は教科書に向けたままリーマスに声を掛けた。
リーマスはその声にダルそうに顔を上げる。
「・・・ちょっとだるくて」
空気が抜けたような元気の無い声。
リーマスはそう言うと、右腕を枕にして再び机に突っ伏した。
はそこで初めてリーマスに視線を向ける。
右腕を枕にしてダルそうに机に身体を預けている鷹色の髪の毛が見えた。
「・・・風邪でもひいたのか?」
は羽ペンを置いてその手でリーマスの額に手を当てる。
数秒たってから、は腕を引っ込めた。
「・・・熱は無いみたいだ」
そう言うの声を聞き、の低温な手が離れていくのを感じ、
リーマスは小さく笑った。
気持ちが良い、ひんやりとしたの手は
だるい気分を少し取ってくれたような気もした。
「・・・、おでこじゃ体温測れないんだよ?」
力なく、ぐったりとしているのに笑うリーマスに
は無言でむっとする。
心配しているのに何だ、と言わんばかりに。
それから、小さく解ってるよ、そんな事、と呟いて
羊皮紙を丸め、教科書をカバンに仕舞った。
ガサガサという物音にリーマスは不思議そうな視線を向けた。
其処にはリーマスの分の教科書類をカバンに仕舞い、
帰り支度をしているの姿があった。
「・・・何してるの?」
無言で片付けていくに、リーマスは声を掛ける。
は教科書の入った重たいカバンを
リーマスの分も持ち、椅子をひいて席を立った。
ギギッ、と椅子の脚が床を擦る音が鈍く響いた。
「寮に戻ろう、リーマス。それ以上具合悪くなったら困るだろ?」
「・・・・・・」
机の、リーマスの横に立ちは言った。
モノの言い方はそっけないが、その声色は少し優しげだった。
リーマスはの視線を受け、しばらく黙ったままだったが、
ゆっくり頷くと席を立った。
から荷物を受け取り(は持っていく、と言ったのだけど)
2人並んで図書室を後にした。
廊下は寒い。
図書室の中が別世界の暖かさに感じられた。
寒い、廊下にコツコツという音だけが響く。
窓の外には雪の白い世界。
リーマスはまだ明るい、水色の空に視線を向け、
立ち止まった。
窓の向こうの木々は葉をすっかり落とし、
その細い枝の上には白い雪を乗せ、しなっている。
「・・・今夜は、満月か・・・」
小さく呟いたリーマスの言葉は、
白く濁って冷たい空気の中に溶けていく。
「・・・リーマス、どうした?」
途中で止まってしまったリーマスに、は不思議そうに声を掛ける。
その声にリーマスははっとしたように、数歩前に居るに小走りで追いついた。
窓の外が見えなくなる。
「何でもない。」
「・・・?」
そう言って笑うリーマスに、は不思議そうな視線を向けるだけだった。
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