smile











うっすら目を開けると、その隙間から僅かな光が入り込み
朝だという事を身体に伝えた。
ぼんやりとその光を受け止め静かに数回瞬きをし、
身体を起こすと緑色のカーテンの間から差し込む光の筋が
はっきりと見て取れた。



はしばらく呆け、不図ある変化に気づく。




やけに頭が軽い。
空気が首筋を撫で、スースーとするのだ。


不思議に思ってそこへ手を持っていくと何かが足りない。



寝起きでぼんやりとする頭でその感触を感じ取った瞬間
ハッとしてベッドから飛び出し、扉の横にある全身が映る鏡の前に立った。
そこに映った姿を見て、ぼんやりとしていた頭が一気に覚めた。





だるくて仕方が無かった体が嘘のように軽い。
その理由は、目の前にある鏡に映し出されていた。



其処に映った姿は前日とは異なっていた。
肩まであった髪は、身体が女になる前の長さにもどっていて
何より、身体が女であると強調していた胸のふくらみがなくなっている。



「・・・戻った・・・」




静に呟いた声は、昨日までのオクターブ高い声ではなく
テノールバスの凛とした声で。




驚きで真っ白な頭の中に一つの答えがよぎる。




シリウスに掛けられた魔法が解けた。
そしてその時に、自分で掛けた髪の毛の魔法も一緒に解けたのだろう。



は鏡に映った自分の姿をしばらく見つめ
気が抜けたようにほう、と息を吐き出し両手に視線を落とした。
昨日までの丸みを帯びた手とは違う、大きくてがっしりとした手だった。






あぁ、戻った。






徐々に実感が湧いてくる。
その感覚に不思議な安堵感がこみ上げてきた。



もうこれで隠れなくて良いのだ。
セブルスにも迷惑を掛けなくてもいいのだ。




不図有る事を思いついて顔をハッと上げた。
鏡にはそれが全く同じように映る。
目を少し見開いた自分が見つめ返していた。




セブルスにこの事を言わなければ。




そう思い立ったら身体は自然と動き出す。
まずはパジャマを脱いで(昨日と比べると少し小さい。身体が戻ったからか?)
制服に腕を通す。
だけど流石にスカートは穿けないので
一応持ってきていた制服のズボンを穿き、
ワイシャツを着る。ネクタイは念のため、女子制服の
時のスリザリンネクタイをつけた。

そしてそのまま部屋を出ようとして
動きを止める。


今、何時だ?



不図興奮みたいな間隔の間に
冷静な自分が顔を出した。


時計を見ればまだ6時前で。




セブルスはまだ寝ているかもしれない。
起きていたとしても自分のように
一人で部屋を使っている訳ではないから今行ったら
見慣れない顔に周りの人間は怪しむに決まっている。


もう少し時間を置いていつもの待ち合わせの時間になったら部屋から出よう。


は冷静にそう考えるとくるりと踵を返し、
ベッドへ向かうとそのままそこへ倒れ込んだ。
静かな空間に時計の秒針の音だけが響いていた。














「・・・ィ・・おい!」


「・・・?!」



耳元で大きな声がして
びっくりして飛び起きた。
カシャン、とベッドのスプリングが軋む。


びっくりして目を開けたわけだが
この身体のだるさから言うと間違いなく自分は寝てしまったらしい。
ベッドに倒れこんだままの状態で寝ていたので
首が痛い。
寝違えたか。



大声が聞こえたほうへ痛む首をひねって視線を向けると
ベッドサイドに二王立ちしている良く見知った人物が居た。
眉間には深く刻まれた皺が。
誰が見ても不機嫌極まりない事が解る顔だった。






「・・・そんな顔ばかりしてると
 早く老けるぞ、セブルス。」



ヒクッと頬が引きつるのが見えた。
あぁ、どうも自分はまずいことを言ってしまったらしい。




次の瞬間聞こえた怒鳴り声。





「馬鹿者!いつもの時間に来ないので心配してきてみたらお前は・・・っ?!」



そして次には驚きの声。
怒りを忘れたかのようにまじまじと目を見張っている。


・・・お前、身体が・・・」



「あぁ、戻ったらしい。」



もう怒りはどこかに飛んでしまったらしい。
この際どうでも良いが。


セブルスはしばらく気の抜けたような顔をしていたが
ハッとしていつもの気難しい顔になった。



そして荷物のある場所へスタスタと歩いていく。
はベッドから降りてその後を追いかけた。






「何するんだ?」
「もうグリフィンドールへ戻れ。」
「今からか?」
「そうだ。その姿ではもうごまかす必要も無い。むしろ
 此処に居たほうが何か誤解されるぞ」
「・・・そうか」






セブルスは淡々と答えながらの荷物を勝手に纏め始めた。
はその間、つけていたスリザリンのネクタイを外し
グリフィンドールのネクタイをつけてローブを羽織った。

そのとき丁度荷物もまとまり、セブルスがそれに魔法を掛けて浮かせた。




「今ならまだ談話室には人が居ない。早くしろ。」





はコクリと頷くと
スリザリンに来た時と同じように道をたどり、
途中で荷物をセブルスから貰った。







「・・・いいか、無茶はするな」



セブルスは荷物を手渡すのと同時に
難しい顔をしてに言った。
は荷物を受け取ると苦笑いを浮べた。



「あぁ、大丈夫だ。有難う。セブルス。」





その答えにセブルスは表情を変えずに
逆方向へ、スリザリン塔へ戻っていく。
はその後ろ姿を見送ると
自分も寮へ戻る為また歩き始めた。
















「・・・?」




静に談話室に入ると、暖炉の前のソファに座っていた
背の高い少年、シリウスが声を掛けてきた。
不思議そうな声のなかに、どこかビックリしたような色も含まれていた。

は薄く笑うと
そちらへ向った。


シリウスはソファから立ち上がって
を嬉しそうに見る。



「戻ったんだな」

「あぁ。ようやくだ」



ククッ、と小さな笑い。
2人は中庭で話したのと同じような笑いを向けた。






その時







「・・・・・」






部屋の扉が開いて
小さな声がした。
はその方向へ視線を向ける。







久しぶりに見る、友人の姿があった。





「・・・ただいま、リーマス」




優しく微笑む。
リーマスは一瞬泣きそうな顔をした。




そしての方に歩み寄ると
静に口を開く。




「ごめん、僕の所為で・・・」





「・・・違う、リーマス。君の所為じゃない」



謝罪の言葉が紡がれた。
少し俯いた彼の顔は見えない。

はリーマスの肩に手を置くと
優しい声色で言った。




「僕はもう平気だ。」



「・・・・」




その言葉に顔を上げたリーマスは
ハッとある事に気付いての前に立った。
その行動には驚く。
そのリーマスの立ち方はを守るようだった。





に何をするつもり、シリウス」





先程の声とは違う、明らかに
警戒を含んだ声。
は驚き、シリウスはやはり、といったように首を傾けた。




「別に何にもしねぇよ」


「じゃぁ何で君がここに居るんだ」


「いちゃ悪いか?」


が傷つくなら。」




半ば睨みつけるようにしてリーマスは言う。
シリウスは小さく溜息をつくと
へ視線を向けた。




はその視線を受けると
リーマスの肩を掴んだ。



リーマスは少し驚いたように振り替える。





「リーマス、聞いてくれないか。
 僕は昔、シリウスの親友だった。とある理由で僕は彼を裏切った。」




リーマスは訳がわからない、というように目を丸くしていた。


は続ける。




「シリウスにとってはじめての親友だったんだ。
 シリウスは僕を憎んでいた。当たり前の事だ。
 だから、ああいうことをされて、僕は当然だと思う。だけど・・・」





はシリウスに笑いかける。
そしてその笑顔をリーマスに向けた。




「僕達、もう“喧嘩”は止めたんだ。」



「・・・え?」




「だから、大丈夫だよリ―マス」







シリウスは笑う。もわらった。


リーマスはそのの笑顔を見て、
シリウスの笑顔も見た。




「・・・本当に・・・?」




「「あぁ」」




優しく笑う
いつもの笑顔を浮べるシリウス。




リーマスは戸惑った。



嘘だろうか。
本当だろうか。


2人は笑い逢っている。




信じるのは―――・・・










「・・・よかった」







リーマスも、笑った。







それは、ある日のよく晴れた午前中の出来事だった。









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