「ごめん」




と何度も謝るをシリウスはどこか人事のように見ていた。
何もかもが機械的に感じていた。
何らかの感情が欠落したかのように、ただそれを見ていた。



どうして彼はああも必死に何かを伝えようとしているのだろう。
今までは、自分の姿を見ただけでも顔を真青にして走り去っていたのに。






悲しげな蒼い瞳がシリウスを捉えた。





物質的にしか見えなかったそれからは、
とても綺麗な何かが溢れて、地面に落ちる。
は其れを拭っていたが、一度流れ始めたら止まらないようで
次から次へと溢れてきていた。



其れを何となく見つめていると
自分の中で何かが一気に動き出して
苦しくなった。





それは突発的な発作のように胸の奥で大きくなって
止まらなくなって、涙が一筋こぼれた。

頬に伝うその温かさに、
あの日冷たくなった心のどこかが敏感に反応して
閉じこめていた感情が一気に溢れてくる。
シリウスは涙を拭う事もせず、
流れるまま静かに泣いた。





涙を必死に拭って顔を上げたの瞳に、
涙でぼやけていたの瞳に何か違ったものが写る。
ぼやけている所為ではっきり見えない。




何だろう、

君の瞳から流れているそれは何?







「…シリウス…」




それが涙であると気づくと、
は驚いて彼の名を呼んだ。


一粒、また一粒と滴が地面に落ちて染みを創る。



「…シリ…」

「俺が、」




一度目をきつく閉じたシリウスは
が再び名前を呼ぶのを遮ってはじいたような声を出した。
一度息を深く息を吸い込むとキッと目を開いた。







「…っ俺が、あの日からどれだけ辛い思いをしていたか分かるのか!」








シリウスの声が、悲痛な叫びが静かな湖面に響く。






ずっと閉じこめていた思いが糸を切ったように溢れて止まらない。
その激しすぎる感情に語彙が伴ってくれない。
それが歯がゆくて、涙が止まらなくなる。




「俺は、あの日お前を待ってた!俺はお前を親友だと思ってた…」





もうの顔が見えない。
涙の幕が邪魔をして見えない。


シリウスは視線をそらして自分の足下を見た。






「なのに…お前は…来なかった……」






ポツポツと地面が濡れていく。
これは 涙か?
俺は17歳になってまで泣いているのか。



咽の奥がとても熱かった。



それを振り切りたくて、
ぐっと手を握りしめる。
爪が食い込んで痛かったが、そんな事はほとんど気にならなかった。







「裏切られたと思って俺はお前を苦しめる事しか考えられなかった」







だけどそれは裏切りではなかった。
裏切りではなかったけど。
心のどこかで傷ついたモノがを拒む。


じれったかった。








「…俺、バカみたいじゃねぇかよ……」







静かにそう言って顔を上げたシリウスには、
自嘲的な、儚い笑顔が浮かんでいた。
止まりかけていたの涙が次々とこぼれる。



苦しい。

凄く苦しい。


本当に泣きたいのはシリウスだ。僕じゃない。



だけど、凄く苦しい。



君は、僕を許してくれる?
笑ってくれる?



は顔をくしゃくしゃにして泣いた。
拭っても拭っても流れてくるそれは、
もう意識的に止める事は出来なかった。







苦しそうに泣くを見て、
ふ、と緩んだ心が涙を流させる。
頬を伝って、重力に逆らう事無く真直ぐ
地面に落ちる。



今日は、出血大サービスだ。
きっとこんなに泣いたのは誰にも見せた事が無いだろう。




あぁ、そうか。

心のどこかでを拒んでいたモノは

成長し切れなかった俺の心なんだ。

今、ようやく俺に追いついてきたんだ。




俺は、もう笑っても良いんだろ?
なぁ、そうだろ、











きっと其れは異様な光景だったに違いない。
互いに向き合って、
寮も性別も違う男女が苦しそうに泣きじゃくっているのだから。









優しい風が、吹いた。

















「・・・・久しぶりだな、



君と握手を交わそう。
あの日、道で迷子になっていた君に俺がそうしたように。



「・・・シリウス・・・」



すっと目の前に出されたシリウスの手。
驚いてシリウスの顔を見る。

何だか酷く嬉しかった。



笑っていたから。
シリウスが。

泣いて紅くなった目を細めて、綺麗に笑っていたから。



はその笑顔に、泣き笑いのような微笑を浮べると
シリウスの手に、自分の手を重ねた。





「・・・あぁ、久しぶり。シリウス・・・」




其れは、久しぶりに見せた
心からの笑顔だった。
2人は互いの顔を見つめて、可笑しそうに笑った。





「ひでぇ顔してるな、


シリウスが悪戯っぽい笑顔で言えば


「シリウスには負けるよ」


が笑って答える。









あぁ、元に戻ったんだ。
否、始まったんだ。
今、この場所で。



友情が始まった瞬間だった。



笑い合って
笑い合って。



酷く嬉しかった。





君と、また友達になれて嬉しいよ。
















楽しげに、嬉しそうに笑いあう2人を、
夏の太陽が見下ろしていた。












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