Recollection















それはまだ幼い頃の記憶。
友達と呼べる人が居なかったシリウスの元に
一人の少年が現れた。
正確にいえば、道に迷って家の門の前を泣きながら歩いていたのを見つけて
家の中に入れただけだけど。


シリウスは物心つく頃から家の中で教育させられていて
学校に通っては居なかったので
同い年であろうこの少年が誰なのかはわからなかった。


その少年は、綺麗な蒼い瞳を持っていた。



その少年はその日からシリウスの家に来るようになった。


両親があまり家に居なかったシリウスにとって
この少年は兄弟のようで
冷たく固まっていた心が少しずつ柔らかくなっていく感じがした。


その少年は沢山話をしてくれた。
シリウスの知らないことや、学校がどんな場所なのか。
シリウスはその話に耳を傾けて
いつか自分も学校へ行ってみたいと、小さく云ったこともあった。



やがて、シリウスにとってこの少年が
家に来るのが唯一の楽しみとなった。



少年はシリウスの家のことを知っても決して媚びるような事はしなかったし、
特別扱いのような事もしなかった。
2人は広い敷地の中で泥まみれになるほど遊んだりして
しょっちゅう家の使いの者に怒られたりしていたが
そんな事を気にせず、何度も遊んだ。






心の底から湧きあがった暖かい感情が
喜びだという事に
幼いシリウスは気付かなかったけど
心の底から少年に信頼を寄せていたし、
少年もシリウスに信頼を寄せていた。



少年がシリウスの家に来るようになって一ヶ月した頃、
少年はシリウスにある提案をした。






「明日から学校が始まるんだ。
 シリウスも来る?」




それは、許されない事だったのだけど。
シリウスはその時、親になんと言われるとも気にせず、
嬉しそうに笑って首を縦に振った。




シリウスは、その日をとても楽しみにしていたし
感情が豊かになってきたことも嬉しい事だった。


夏の、とても暑い日のことだった。










約束したその日、少年は姿をあらわさなかった。







シリウスは家の前で何時間も彼を待ちつづけた。
次の日も、その次の日も。




だけど、少年がシリウスの前に現れる事は二度と無かった。





シリウスは泣かなかった。
心が以前のように冷たくなってしまったから。
悲しいとか、寂しいとかそういった感情が
が与えてくれた小さな喜びの感情とかを
一気に凍らせてしまったから。



シリウスは、その日以来“蒼”という色が嫌いになった。













シリウスがそれを忘れ去った頃、
少年とはまた違った温かな感情を与えてくれたジェームズ達と出会い、
学校生活というものを楽しんでいた時
あの、蒼い瞳を持った少年が目の前に現れた。



忘れていたはずの悲しい記憶は
一気に憎しみへと姿を変えて。




蒼い瞳の少年は、間違いなくあの頃であった
だった。




が自分を見て、名前を聞いた瞬間の驚きようが気に食わなかった。

その眼は、完全にシリウスを忘れていたので。




元のように、昔のように仲良くなんて出来ない。
ずっと心の奥で自分を苦しめてきた相手だ。




そんなシリウスの考えとは裏腹に、
ジェームズやリーマスはどんどん打ち解けていった。
ピーターまでもが、の眼が好きだと云った。



それを見るたび、入学してから今まで築いてきたモノが
全てこの少年に取られていく気がして
シリウスは、を排除しようとした。




しかし、シリウスがその行動をとるたび
ジェームズやリーマスから強く咎められたり
反発を食らったりした。



そんなジェームズやリーマスの行動が
シリウスの嫉妬を増幅させる事になっていたとは
当の本人も、ジェームズ達も気付いていなかったのだけど。





があの日の少年である事に気付いたその日、
食事の時にに質問をぶつけた。
『お前は何者だ』と。
それは少々乱暴な聞き方だったのだけど。
本当に忘れてしまっているのか確かめたかった。


その質問に、は真直ぐにシリウスの眼を見た。
あの蒼い瞳だけは変わっていなかった。



しかし、の口から紡がれた言葉は
シリウスが望んでいた言葉ではなかった。
瞳はあの頃と変わりないのに。




そう思ったら、シリウスの拳はに向っていった。
それがの頬に当ったかと思うと
彼は床に倒れ込んで、口端からは血が出ていた。





――――俺が悪いんじゃない。――――





怯えた瞳が自分を見上げるのを
上から見下ろして心の奥で叫んだ。


シリウスは心のどこかでわかっていた。
こんな事をしても、何にもならないという事を。
しかし、憎しみは一人歩きをして、
成長し切れなかったシリウスの心は其れをとめることが
出来なかった。



も、彼自身に何かあったようで
シリウスに殴られてからは一人で居るようになった。



シリウスは何故かその事も気に食わなかったし、
かといって、ジェームズ達がに手を差し伸べる事も気に食わなかった。
に対しての憎しみや嫉妬が押えられなかった。



そうこうしているうちに、とうとうジェームズもリーマスも自分から離れていった。
それがシリウスにとってある行動をとる引き金となり、
又、シリウス、リーマス、ジェームズの三人の友情が崩れるスタートにもなった。




シリウスはとうとう行動に出る。
ジェームズとリーマスに、絶対に使ってはいけないといわれた
あの悪戯の薬を使ったのだ。





魔法での本を落とした後、
そこへが戻ってくるのを待ち構え
後ろからバットで殴った。


はがっくりと膝を尽き、
ぼんやりとした、しかし強い眼差しでシリウスを見た。
その瞳がシリウスの嫉妬に追い討ちをかけて、
が完全に意識を失った所で、シリウスは今では使われていない
展望台にある教室にを運んでいくと
意識を失った彼の口に薬を流し込んだ。





酷い胸の痛みに苦しくなって、
部屋から出て外を見つめていると
やがて部屋の中から大きな音がして
が目覚めたのだという事がわかった。
部屋の中にいたのは、女の身体になったがいて。




を床に倒した。否、投げつけたというほうがあっているのかもしれない。
は苦しそうな咳をした。
は必死に暴れたが、の力はシリウスにとってあまりにも弱かった。


「何故」と繰り返す彼に、シリウスは気付いたら殴っていて。
口端から出た血を見つめ、また心が締め付けられた。




「お前が裏切ったからだよ」




目を細めて呟いた言葉に
が反応した。
余程云ってやろうかと思った。
幼い頃のあの日の出来事を
どれだけ心が傷ついたのかを。






その時、突然教室の扉が開き、
思っても無かった人物が自分を殴りつけた。


敵だと見ていたその人物、スネイプまでもが
の味方なのだと解ると
何故か自嘲的な感情が溢れて
殴り合いになっても覚めた自分が居るのに気付いていた。








ボロボロになったスネイプを抱えては部屋を出て行った。


残酷な言葉を残して。






『僕の友達に危害を加えるのは許さない』








力が抜けた。
酷く惨めだったのだ。
後を追いかけようかとも考えたけど
そんなことをする気力なんて無かった。



スネイプに殴られたことよりも、
に云われた言葉のほうが痛かった。





俺は、友達じゃなかったのか?
あの頃感じた暖かい感情を、友情だと信じていた俺が間違っていたのか?
結局、彼が俺のことを思い出さなくて
勝手に一人で悪人になっていただけなのか?







もう、沢山だった。
















シリウスはその日からの前に姿をあらわさなくなり、
リーマスやジェームズがを探す事にも気をとめなくなった。
昔の自分に戻り始めている事が何となく解っていた。




よく晴れた日曜日。
久しぶりに一人でクィディッチ競技場に来ていた。
箒で飛ぶ事も考えたがそれも面倒で
ローブのポケットに手を突っ込んで競技場を眺めていた。




その時、背後からかけられた声の持ち主に
シリウスは心臓をつかまれたような
そんな衝撃を受けた。













『君は一人じゃないよ』



そう言ってくれたのは、いつだったか。





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