"The happy child."
















“幸せな子供”




彼は幼い頃そういわれて育ってきた。




人里から少し離れた森の手前、
立派な門を構えた大きな屋敷があった。
森も、そこを流れる川も全てこの屋敷の敷地。



彼、シリウス・ブラックは其処に住んでいた。


決して貧しくはない生活。
むしろ豊か過ぎる生活を、醜いことも
汚い事もしない貴族のような生活を送っていた彼は
人々から“幸せな子供”と呼ばれていた。



しかし、それは見かけだけだった。




彼の両親はとても厳しい人だった。





“ブラック”という名に負けぬように
輝く星の名前である“シリウス”という名を付けた。
いつしか彼の両親は、彼を家に閉じ込めて
英才教育を施し始めた。



常に“純潔”を守ろうとする両親やその一族は
ブラック家が魔法界の頂点にいるとそう思っていた。
だから、マグルのいる学校へは行かせて貰えず、
純潔の魔法使いだけがいる屋敷の中での生活を強いられていた。


彼は“純潔”などにこだわってはいなかった。

普通の魔法使いとして、普通に生活できれば
それでよかった。







しかし、シリウスが成長していくにつれて
周りには『ブラック家』に取り入ろうとする
いわゆる、下心しかない大人たちが近づくようになった。
欲しくも無い物を送られ、仲良く遊んでくれたかと思えば
帰り際はあっさりと、しかしシリウスに対しての態度は
べっとりと汚く、「ご両親に宜しく」という言葉が
必ずついていた。





そんな大人ばかりが近づくシリウスに
もちろん、シリウスと同じくらいの子供は近づくわけもなく。


「一度で良いから学校にいかせてくれ」



と何度も両親に頼んでも
あざけるような笑いしか返してくれず、
あまり家に居ない両親は
純潔のものだけに相手をさせていた。




どんなに嫌だと泣いても毎日のように叩き込まれる
社交的な礼儀や考え方。


そんな毎日に幼かったシリウスの心は耐えられるはずも無く
やがて彼は何にも興味を示さなくなっていった。



心ばかりが大人になる。





おとなしく従うようになったシリウスに
両親は満足げにたくさんの事を覚えさせた。
人形のようになってしまった我が子を、頼もしげに見つめていた。







そんな毎日を過ごしていた彼が11歳の誕生日を迎えた時
彼のもとに一通の手紙が届いた。
それは云わずと知れた『ホグワーツ魔法魔術学校 入学許可証』で。
普通なら喜ぶものなのに
シリウスは其れにすら興味を示さなかった。


だけど両親が入学する事を薦めた。
もちろん、入る寮はスリザリンだと言い聞かせながら。
シリウスはその言葉を聞くと二言返事で入学する事を決めた。








しかし、入学してから彼が入ったのは
スリザリンではなく、そのスリザリンと敵対している
グリフィンドールだった。



何故、と首をかしげるシリウスは両親に手紙を書いた。
しかし、返事は帰っては来なかった。
そんな両親を、シリウスは冷めた心で認識する。
自分はただの、ブラックという名前を絶やさないだけの道具として
育てられているのだと
11歳ながらにして思った。










殆ど人形のように生活をし始めた頃、
シリウスに話し掛ける人物が一人現れた。




彼の名は
ジェームズ・ポッター。




シリウスは不思議だった。
話し掛けても何の言葉も返さずじっとしている自分に
いつも話し掛けてくる、その気持ちが。
彼は一人で話し掛け、そして笑っていた。



その屈託の無い人柄や笑顔に、徐々に心が広がっていく感じを覚えたのはいつだろう。



やがて、少しずつシリウスも笑うようになっていった。
ジェームズが持ってくる話は何時も可笑しかった。
脈略無く話すその笑顔は本当に人を和ませる力があって
初めて、周りのものが全て新鮮だと思えるようになった。




やがてそこにリーマスが加わり、ピーターも加わった。




5年生になる頃には
シリウスに入学当時の面影はすっかりなくなっていて。
ジェームズと一緒にクィディッチのメンバーにもなった。


毎日が楽しくて、一日一日が違って見える、そんな生活だった。





そんな時
悪戯メンバーのリーマスが人狼である事が仲間内にわかった。
その時からリーマスはシリウス達から逃げたり、隠れたりして
以前のように接しようとはしなかった。






リーマスが自分たちに近づかなくなったのが何故なのか
シリウスには解らなかった。
ただ、傷ついた眼をしたリーマスを
一人にしてはおけないとそう思っていて。
無理矢理にでも昔のように振舞おうと考えていた。





だから、“アニメーガス”になる魔法を習得しようと
ジェームズたちに話をしたし、
アニメーガスになれるようにもした。





リーマスは、笑っていた。
怯えた様子も無く、笑った。





心が温かくなったのを覚えている。



これが“友達”なのだと。















小さい頃あった、あの出来事が心をよぎって
しまいこんだはずの感情がしばし表に出てくる事もあった。





蒼い瞳の少年。






今、どこで何をしてるかなんて興味は無い。
許せなかった。











7年生になったある日の事、
悪戯を仕掛けて逃げ込んだ部屋に誰かが倒れていた。
見かけない顔だったが医務室へ運ぶと
少年はすぐに目を覚ました。





ぼんやりと眼を開けて周りを見る少年。
後ろにたった自分には顔がわからない。



親しげに話し掛けるジェームズを不思議そうに見ていたその様子に
何故か違和感がわいて声を出した。




振り返ったあの顔は、あの瞳は







間違いなく、幼少の頃であった
いまだに許せないあの




蒼い瞳をもった少年
だった。













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