Timidness























一瞬、その場だけ時間の流れが止まったかの如く
彼等は動けなかった。


互いに凝視しあう
そんな時間の停止。



それはほんの十数秒間だけだったかもしれないし
もしかしたら2分間近かったのかもしれない。
どちらにせよ、にとっては長い時間のように感じられていた。


自分の身体を押さえつけているシリウスも、
扉のところに立って驚いた顔をしているセブルスの方が怖かった。




何も言わず、こちらを凝視しているその目が。





ただ身体にまとわりつくような、嫌な沈黙だけが
ゆっくりと流れた。




やがて“沈黙”のカーテンを思い切り開けるように
突然時は急速に動き始めた。




「な・・・にをしている!!!」



セブルスがだっと部屋の中に駆け込んできて、
の上にいるシリウスを思い切り殴り飛ばした。
ダンッと凄い音がしてシリウスが壁にぶつかる。




その間の全てがにはスローモーションのように見えた。


セブルスに殴られて紅くなったシリウスの頬に、
少し長めの髪が綺麗に落ちる。
その口元からは口内が切れたことを示す赤い血が出ていた。




シリウスはその血の味に顔を顰めると床に唾を吐き捨てるように
それを吐きすてる。






グイッと腕を引っ張られは乱暴に起こされた。
一瞬の浮遊感を感じた後、両足をしっかり地面につけて立ったが
やはり身体に力が入らずふらついてしまった。

目の前にはセブルスの背中。


いつも血色の悪い顔に、
微かにあかみが差し息が上がっている。



「ブラック!何をした!」



セブルスがまた怒鳴った。
は呆然とその背中を見つめた。
こんなに怒っているセブルスを見るのは初めてだからだ。



はシリウスに破かれたYシャツの胸元に
ローブを寄せて見えないようにした。




“これ”がセブルスにバレたらまずい。
特に今のセブルスは何をするかわかったものではないから
余計にだ。



しかしそれは単に
時間の問題でしかない事はよくわかっていた。






がセブルスの向こうに見たシリウスは、
壁により掛かったままだるそうな目でこちらを見ていた。





まるで


まるでいつもの二人が入れ替わったかのようだった。





自分に対して敵意をむき出しにしていたシリウスは
何にも関心を持たないセブルスのような目をしていて、
そのセブルスはシリウスに対して敵意をむき出しにしている。





ほんの少し、目眩がした。
それは体の異常からのものであったかもしれないが
人の感情の変化によるものだったのかもしれない。



どちらにせよ、には解らないが。


不図、シリウスが笑った。



楽しそうな笑いではない、
もっと冷たい笑い。




はその笑い方に、
一瞬体が強ばった。




知っている、
自分はこの笑い方を知っている。
誰かが、どこかで笑っていた。




凄く冷たい笑いだった。







「何がおかしい」


セブルスは口をギュッと結んで言った。
少しくぐもって低い声だった。
シリウスはそんなセブルスを嘲るように笑って、言った。




「何でお前がキレんだよ。何、アレか?お前等ゲイか?」


紅見が差していたセブルスの顔の色がさあっと無くなった。




その代わり、体がブルブルと震えて
その背中が体中の毛が逆立ったように大きく見える。



がはっと我に返ったとき、
セブルスはシリウスの胸ぐらを掴み、
そのまま埃臭い床に押し倒す処だった。



セブルスの拳が既に赤くなっているシリウスの頬を殴りつる。
ガッと嫌な音がした。


シリウスも息をあらげるセブルスの胸ぐらを掴み、
その反動で前のめりになったセブルスの頭に自分の頭を打ちつけた。

一瞬緩んだセブルスの力を見計らい今度はシリウスが上にのって思い切り殴りつける。
ガッと鈍い音がしてセブルスの頭が床にぶつかった。
その拍子にセブルスのシリウスの胸ぐらを掴んでいた手が緩み、
シリウスを押さえる力がなくなった。



自分を押さえる力のなくなったシリウスはもう一度、
今度はセブルスの腹部めがけて思い切り拳を振り落とした。
ぐっとセブルスが小さく呻き、それから空気を吐き出して咳き込んだ。




「オイ、スネイプ。さっきの勢いはどうしたよ?」




シリウスはそう言うとまた拳を振り上げた。










「やめろ!」






あと少しでセブルスに向かって拳が振り降ろされようとした瞬間、
は力の入らない体に無理矢理力を入れてシリウスに飛びかかっていった。
セブルスにしか意識を向けていなかったシリウスは突然のことだったので
バランスを崩し後方へ倒れ込んだ。



はセブルスを起こし、立ち上げるとその前に立った。
セブルスを支えながら、自分を見上げるシリウスを睨む。




今、もし体がしっかりとした状態だったら殴っているのに
今はセブルスを支えるのに精一杯だ。
皮肉な事にあれほど恐れたシリウスに対してこんなにも恐れることを
忘れて殴り掛かろうとしているのは力の弱い女の時だけだった。





「君がどうして僕をこんなに嫌うのかは解らない…けど」















「僕の友達に危害を加えるのは許さない」













青い瞳はシリウスの瞳を捕らえて離さなかった。
はありったけの軽蔑を込めた瞳でシリウスを
再度睨みつけるとセブルスを支えながら部屋から出ていった。
パタンと閉まる扉の向こうでシリウスがこちらを見つめている気配を感じた。











埃臭い部屋の外の空気はやけに新鮮に感じられた。
はその部屋から少し離れるために階段を下りていく。

一歩一歩降りていく度、十分に力が入らない足にセブルスと
自分の体重が掛かり、何度か躓きそうになった。
その度は立ち止まり、セブルスの体重をかけなおした。

そしてやっとの事で階段を下ると、ふ、と力が抜けたように二人はその場に座り込む。


其処は城と城の繋ぎ目で扉が締まっている今、
小さな部屋のようになっていた。
は座り込んでからすぐにシリウスが上から降りて
来るだろうかという事を頭の隅っこで思ったが
非常に身体がだるかったのとセブルスの怪我の具合を見て
そう早くは降りてこないだろうという、無理やりの考えでまとめた。





はぼんやりと小さな窓の外、すっかり日が落ちて
真っ暗になった空を見つめた。
古ぼけた窓を打つのは雨。
時折光ってはゴロゴロと音がする。
風も、強いみたいだ。

今日は、嵐か。
今の状況にピッタリだ。







―――今は何時だろう。
リーマスとの約束をすっぽかしてしまった。
リーマス・・・どうしたかな・・・











不図リーマスとの約束を思い出し、
涙が出そうになった。


は慌てて下を向く。



何時からこんなに涙腺が弱くなったのだろう。
嫌だな。
身体がこんな風になってしまったその影響だと信じたい。







その時、ずっと黙っていたセブルスが口を開いた。





「・・・すまなかった」




は驚いてセブルスを見る。
左頬が紅く腫れ上がっていて、目元は青くなっている。
酷い顔だった。




「・・・何が?」

「私はに迷惑をかけてしまったようだ」





それは、セブルスらしくない
弱気な発言だった。
は驚いて何もいえなかった。
それと同時に非常に悲しくなった。
ただ、目をそらされたセブルスの横顔を見つめる事しか出来なくて
余計に悲しくなる。



暗闇の中で、何時しか大きいと思ったセブルスの存在が
急にしぼんだような感じがした。







「そんな事ない」


声が震えていて、本当の女の声だったけど
特に気にとめなかった。其れ何処ではなかった。


「僕が今までどれだけ君に助けられたか、
 どれだけ君に迷惑をかけたか解らない。それに比べたら・・・」





どうしようもなく腹が立った。
守ってもらってるだけの自分と、無意識の中にあった無責任な行動をしてきた自分に。

結局は
“人から与えられている”だけで、何も返せてはいない。



さっきも助けてもらったのに
ただ呆然と其れを見ているしか出来なかった。



悔しかった。





「僕は君に守ってもらってばかりだ。
 セブルスに迷惑をかけられたと思ったことは一度も無い。」






気を緩めれば泪が出そうになる。
だけど、真直ぐセブルスの目を見ていった。



セブルスは少し表情を崩して
の目を見つめ返した。



泣きそうな目だった。






2人は黙ってしばらく其処に座り込んでいた。
互いにシリウスに殴られた頬が痛んで体がだるかった。






「明日からは少し面倒だな・・・」





不図セブルスが呟いた。
は何のことか解らなかったが、それが何だか分かると
ふ、と表情を崩した。




「バレてたんだ?」



そう言って気まずそうにローブを握り締める。
セブルスは少し呆れたように溜息を付いた。





「帰るぞ。傷の手当てをせねばならん。」



立ち上がったセブルスが少し痛そうに顔を歪めたのを見て、
も立ち上がった。
2人は先生や監督生に見つからないように
言葉少なげに廊下を歩いてそれぞれの寮へ戻っていった。



幸い、誰にも見つかる事は無かった。
セブルスと別れた後、は部屋に戻って
空を見上げた。






先程まで酷く荒れていた空に
星が綺麗に瞬いていた。







もっと今より強くなりたい。
人に与えてもらっているばかりでなく、
自分も人に何か与える事ができるように。











その日、初めて星に願いをかけた。





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誰かこの小説のイラスト描いてくれないかなぁ・・・(笑