何で、こんなことを・・・




Betrayal














目を開けたとき、自分が今何処にいるのか解らなかった。




目の前には古びたクラシックな模様のついた天井が
自分を見下ろしている。







ただ一つ確かなのは、頭が割れるように痛いということだった。
はぼんやりとする頭で数回目を瞬くと
ゆっくりと起き上がった。
そして首を動かして辺りを見る。




どうやら此処は何処かの教室のようだ。
教室、というより
たくさんの物や机、そしてそれらが
埃を満遍なく被っているところを見れば
物置というほうが正しいかもしれない。





少なくとも自分の部屋ではない。








起き上がってから気付いたが、
体中が痛い。
それも、筋肉痛のようなはっきりとした痛みではなく
鈍い、ぼんやりとした痛みだ。






自分が寝転んでいる下が固いことや
ローブ越しに伝わったひんやりとした感覚でも解るように
自分が床で寝ていたらしい。











寝相が悪くて
此処まで転がってきた?
そんな馬鹿な事が有るはず無い。
万が一そうだとしたら
自分は夢遊病者じゃないか。





はそんな脈絡のない
考えを頭から追い出そうと軽く首を振った。







首を動かした時、
頭の後ろに、ズキン
とはっきりとした痛みが走った。




は小さくうめくとそこに手をもっていく。
少しザラっとした感触と微かな湿り気があった。
そして、その部分を触れた指を見ると
固まった血液の破片や、まだ固まっていない血液が付着していて。





そしてそれを見た瞬間、
何もかも思い出した。
と、同時に心臓もバクバクと嫌な鼓動の仕方を始める。
















――――そうだ、確か僕はブラックに殴られて・・・


















そう、そうだ。

シリウス・ブラックだ。





思い出したところで
は一気に血の気が引いていくのを感じた。









自分は廊下でブラックに殴られたはずだ。
では、何故、場所はわからないが教室の中にいる?
彼が此処へ運んできたのだとしたら、
もしそうなら彼はこの教室の中にいるはず――







は慌てて立ち上がったが、力が入らず
派手によろけた。
その時傍にあった机にぶつかり、
机の上に乗っていた数冊の教科書が大量の砂埃と一緒に床に
大きな音を立てて落ちる。





は何とか机に寄りかかって体制を整えると、
思い切り吸い込んでしまった砂埃にむせた。








のすぐ足元には床に散らばった教科書等と共に、
手鏡が落ちていた。





それはアンティークな鏡で、浮き彫りの模様が美しい。
右上から中心部にかけて走る、大きなヒビさえなければ
マグル界で結構な値段で売られるものだろうと思わせるものだった。




はぐるりと周りを見渡すが、
シリウスらしき人物の影は見当たらなかった。
どうやら、この教室の中にいるのは自分だけのようだ。










「・・・ここは・・・」









は自分の発した声に驚いた。
なぜならその声は普段、自分が出している
声よりも約1オクターブほど高かったので。




埃を吸ったからだろうか、
はそんな事を考えながら喉元に手を持っていった。










その時、教室の扉がゆっくりと開いた。










は気の抜けたような顔をしてそちらを見る。
の蒼い瞳に、その人物が映った。




その人物は一瞬驚いた顔をしたが、
笑みを浮べて教室の中に入ってきた。




パタン、と戸が閉まる音がしたのと同時に、
鍵をかける独特の音もした。




ハッと我に戻ったはその人物から距離を
とろうと、一歩足を引く。






「ようやくお目覚めか?






その人物は、笑みというより
ほぼ何かを見下すような嘲笑いを浮べると
腕を組んでを見つめた。
はその態度を見て微かに頭に血が上っていくのを感じた。





「・・何をした・・・ブラック」





力の入らない体では殴りかかれないが、
もし身体がしっかりとした状態なら今頃逃げるか
殴りかかっているかのどちらかだった。
しかし今では両方とも無理だ。




の前に現れたのは、
他でもないシリウス・ブラックだった。






は悔しさと怒り、そして恐怖が入り交ざった
瞳でシリウスを睨む。
シリウスはそんなの感情とは裏腹に
あの見下すような笑みを浮べたままだった。





そして、ふ、と腕を解くと改めてを真直ぐ見つめる。
口角をクッと上げて笑う様は、まるで悪魔のようだった。








「なぁ、。身体の調子はどうだ?」







「・・・身体・・?」






訳のわからない状況で混乱していたは、そのシリウス
の言葉に一瞬にして気を取られる。
気の抜けたような表情をしたを見て
シリウスは口元に手を添えて喉の奥で笑った。







「あぁ。気付かないのか?」






は机に付いている手を離せば倒れてしまいそうになる
身体を、もう一度手を付き直して支えなおすとシリウスを疑り深げに見た。








「気付くって・・・何を・・」

















その時。












不図視線を落とした先に、
あのアンティークなデザインの鏡が視界に入った。



其処に映っていたのは、疲れた表情で
机に寄りかかって体を支えている、
漆黒の髪で、蒼い瞳の――――・・・











「っ?!」













そう、あの不快な感覚の正体が其処に映っていた。





は身体を支えていた腕の力が抜け、
床に膝をついて座り込む。
そして鏡から無理やり視線を引き離して自分の両手を見た。










「何・・・で・・・」









この、少し高くなった声だって
気を失ってたから、ただの寝起きの声の状態になってるだけだと思ってた。




体中のあの鈍い痛みも、床で寝ていたからだ、と。













でも、そうじゃなかった。












鏡に映った自分の姿は、
顔の輪郭は丸みを帯び何処となく柔らかそうな印象を与える。
肩幅は心なしかなで肩のようになっていて。
そして何より一番の変異は、
あるはずの無い胸部が膨らんで、



女性特有の胸が、あった。






そう、自分自身の身体が女形になっていたのだ。












「・・・・女・・・・?」









目が醒めた時からある
この身体の不快感も声も。
全部身体が変わった所為だったのだ。






「どうだ?気に入ったか?」




シリウスが自分のすぐ近くに来て見下ろしていた。
はギッとシリウスを睨みつける。




「・・・お前が・・やったのか?」



「そうだけど?」







あぁ、そう。
君か。


の中で、怒りが一気に膨張した。




力の入らない体が怒りで小刻みに震えた。









「・・・何で!何でこんなこと・・・」































が思い切り叫ぶと
自分を面白そうに見下ろしていたシリウスは
ふ、と表情を崩した。
がそれに気付いたとき、
シリウスはすでに動いていた。




「・・ぅ」



ふと体が軽くなったと思ったら
視界が90度変わっていた。
背中に走る衝撃と平たい感じ。






「・・・カハッ・・・」







強く押し倒された
空気の抜けるような咳を吐き出した。







そんなことよりも。







今は目の前のシリウスが問題だった。
は自由に動かない四肢を必死に其処から
逃れようと動かす。




しかし、女の体の今は力が出なくて
シリウスからは逃れそうに無かった。



「やめ・・っ」






シリウスが何をしようとしているのかは解った。
女の体の自分。
押し倒してする事といえば一つしかない。






「離せ!!」






手首を強くねじ上げられ
は声に出ない悲鳴を上げる。
シリウスは顔色一つ変えなかった。







あるのは、憎しみだけ。














「何で・・こんなことすんだよ・・」









は涙が出そうになるのを必死に堪えて
そう、呟いた。
シリウスの動きが、ピタリと止まる。





それと同時に、
頬を殴られた。






口の中に鉄の味が広がる。













「・・・っ・」









痛みでぼんやりとしている中、
シリウスが何かを呟くのを聞いた。
は目を見開いてシリウスを見る。






シリウスは、今までに見たことの無いほど無表情だった。








そして再度、呟いたのだ。











「お前が裏切ったからだよ」











昔の、忘れた記憶の中で
許せない人物が、目の前にいる。


それがシリウスにとって全てだった。








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