楽しいショーの始まりだ。
Intellect.
ここ一週間、はシリウスの姿を見ていなかった。
それはにしれみればとても気が楽であるのだが、
彼と仲の良いジェームズやリーマスが別行動しているのが
少し気がかりだった。
リーマスはともかくとして、あのジェームズまでもが
共に行動をしなくなっていた。
それを見る都度何故か自分が悪いような気がして気が滅入ってしまう
のだが、リーマスは決しての元を離れようとしなかった。
そう、まるで何かから守るかのように。
「だから、リーマス此処はこうで――・・」
違う違うと首を横に振りながらはリーマスが間違えた
部分を指で指して言った。
「あぁ、そうか!此処でイモリを入れるんだね」
リーマスはそう言うと教科書との指してくれた部分を
交互に見ると納得したようにペンを走らせた。
はそれを見届けると他にも間違いが無いかと
他の部分に目を走らせながら頷く。
しばらくの間、が教える声とリーマスが質問する声が途切れ、
沈黙が流れた。
その沈黙の間に微かなざわめきと本を出し入れする音だけが入り込む。
とリーマスは図書室に来ていた。
というのも、部屋に居ては集中できないだろう
というの考えがあってのことなのだが、
事実、リーマスは周囲にある誘惑に大変弱かった。
そして図書室に来てみればこの集中振り。
はリーマスに見えないように苦笑いを零した。
そして自分も残りの課題を片付けるために
書きかけの羊皮紙を取り出して続きを書き始めた。
は、リーマスやセブルスとこうした時間を持てることが幸せだった。
穏やかな空気が流れていくこんな時を過ごしていると、
自分に起こった事や、これから起こるであろう不幸を考えずに済む。
これが、恐らく安心感と呼ばれるものであろう事はにも解っていた。
「ふー・・。やっと終った・・」
やがてリーマスが大きな溜息と共に
羽ペンを机において伸びをした。
その時丁度も最後の一行を書き終えたところだった。
リーマスは手首を廻すとまじまじと書き終えたばかりの自分の羊皮紙を見つめ
満足げにそれを手にとる。
「僕、こんなに集中して課題やったの久しぶりだな」
「お菓子を食べながらやるから集中できないんだろ」
の鋭い突っ込みにリーマスは苦笑い、
というより爽やかな笑顔を向ける。
その顔はまさしく反省の色が全く見られないというもので。
ははぁ、と溜息を付いて使った本や羊皮紙を片付け始めた。
リーマスはそんなの行動を楽しむかのようにクスクスと
笑いを零すと、本を返しに行こうと椅子から立ち上がったを見上げた。
「課題も終った事だし、寮に帰ってお茶飲まない?」
ね?とニコニコとするリーマスを見つめると、
は片手に本を乗せて静に笑った。
「そうだな・・・リーマスの煎れる紅茶は好きだ。」
そう言っては目を細める。
リーマスが少し驚いた表情を見せたのを
は気付いていないのか解らないが
はふ、と笑いを落とすと本を返しに行くと言って
其処を離れた。
が本を返しにそれぞれの本棚に行ってしまうと、
リーマスは一人、大きな伸びをして嬉しそうに微笑んだ。
リーマスにはと親しくなりたいと強く願った理由があった。
何年か前、ジェームズ達に自分が人狼であるとばれた時の事。
リーマス自身、今ののようにジェームズやシリウスを見ると酷く怯えて
その場を逃げ去ったりしていた。
しかし、彼等はそれでも自分の傍にいようとした。
強引な事をしてでも自分の心を彼等に開かせたのだ。
その事があるまで、リーマスは常に一人だった。
上辺だけの付き合いだと割り切っているはずなのに、
身体の事を知った途端自分から離れていってしまった友人と
呼んでいた人々を何人も見てきたから。
割り切っていたのに、
いなくなったときのあの寂しさは忘れられない。
だから、初めて出来た親友を
あんな容で失いたくは無かった。
だから、自ら一人になろうとした。
だけど、それでも彼等は傍にいてくれた。
軽蔑も、
恐れも、
差別もない、優しい瞳で見てくれた。
特別扱いではない。
喧嘩もしたし、殴り合いだってあった。
それだけではなく、満月の日には
一緒に居てくれようとしてアニメーガスになる魔法まで習得してくれた。
あの時の嬉しさは、忘れられない。
そしてシリウスに殴られたが、
どうしてもあの頃の自分と重なって見えた。
だから、あの痛みと苦しみは十分理解できた。
だから一人には出来なかった。
強引だったかもしれない。
だけど、彼は笑顔を見せるようになった。
それが嬉しくてたまらなかった。
いつか、ジェームズとも分かり合って
皆で笑いあいたい。―――シリウスとも。
そんな希望ばかりが一人歩きしてしまっている。
リーマスはもう一度、に教えてもらった課題を見ると
嬉しそうに微笑みを零した。
は本の番号を確かめると最後の本棚へ返した。
そしてリーマスのいる机のところへ戻ろうと踵を返して
歩き始める。
すると、途中の本棚で
高い所にある本を一生懸命取ろうと背伸びをする少女を見かけた。
は横目にそれを見ると、
黙ってそのまま通り過ぎようとする。
だが、あまりにも一生懸命な少女を見かねて
そちらに足を向けた。
少女の斜め後ろに立つと、
の身長でも流石に届きにくい所にある、
少女の目的の本だと思われるそれに少し背伸びをして
手を伸ばした。
分厚い本を取ると、案の定
その女子生徒は驚いたように振り返った。
「・・・あっ」
「はい。これが取りたかったんだろ」
そう言って本を差し出すと
女子生徒は目をぱちくりさせて本を受け取った。
「あ・・有難うございます。」
少女は深々と頭を下げる。
茶色のセミロングの髪がさらさらと流れた。
ネクタイの色からするとハッフルパフ生。
見た感じ、同い年か一つ下だろうか。
は頭を下げる女子生徒を見ると小さく首を横に振った。
「別に、そんなに頭を下げる必要ないよ」
そう言って静に笑った。
女子生徒はぱっと顔をあげ、
そしてのその笑顔を見ると顔を真っ赤に染め上げる。
しかし、はその事に気付かないまま
その女子生徒に背を向けて歩き始めた。
「・・・あ、有難う・・」
の遠のいていく後姿を見つめながら、
顔は真っ赤なまま、彼女は小さく再度お礼を言った。
「リーマス、帰ろうか。」
リーマスのいる机に戻ったは
自分の鞄を持つとリーマスに言った。
2人は図書室を後にする。
寮までの廊下を歩く間、
2人は他愛も無い話で盛り上がった。
特に、リーマスからセブルスがはじめて悪戯にあった
時の反応について聞かされたときには
が爆笑しすぎ、床に座りこんで動けなくなった。
リーマスもそんなの笑いにつられて壁に寄りかかって
一緒に爆笑する。
廊下を通った何人かの生徒には変な目で見られていたに違いない。
それでも、彼等は笑いつづけた。
同じ痛みを共有した、その痛みを消し去るように。
「駄目だー、!君笑いすぎだよ」
「それはリーマスが変な事云うからだろ」
やがて2人は歩き出した。
それでも2人には笑いの余韻が残っているようで
些細な事でもすぐに笑った。
「あ・・」
ふと鞄を持ち替えたが足を止める。
リーマスはそれを不思議そうに振り返った。
「ヤベっ・・・教科書落としたみたいだ」
は慌てたように手にもっていた数冊の教科書を
見たり、鞄の中を見たりした。
リーマスはそんな行動に少し苦笑いをする。
「一緒に探そうか?」
「あぁ、大丈夫。元の道をたどればあるはずだから。
先に帰ってお茶の用意しておいてくれないか?」
は鞄を持ち直し、
その中に手にもっていた教科書を入れると
リーマスをすまなそうに見た。
リーマスはクスクス笑うと頷く。
はそのリーマスをみて走り出した。
「いいよ。急いで行ってきなよ」
リーマスのその言葉には苦笑いを浮かべた。
リーマスと別れた場所から数メートル離れた曲がり角を曲がると、
そこに教科書は落ちていた。
少し奥の、暗い場所に。
「あった・・・」
どうしてあそこに落としたのだろう。
本が落ちる音もしなかったし、あそこまではちゃんと
自分が手に持っていたはず。
リーマスと笑い転げた時にでも落ちたのだろうか?
はそんなことを考えると、
その疑問よりも先に教科書を見つけたという安堵感で
ホッと息をつくと教科書を拾い上げようと屈んだ。
その瞬間――――・・・
ガッ
「・・・・っ?!」
教科書を手に持った瞬間
鈍い音がして、頭の後ろに鋭い痛みが走った。
バサバサと鞄と教科書が床に落ちて
鞄からは羽ペンや羊皮紙が投げ出される。
「ぅ・・っ」
は地面にガックリと膝を付いて
床に片手をつけ、もう片方の手で頭の後ろを抑えた。
目がクラクラする。
手にはヌルリとする感触。
手を見てみれば紅い液体。
血が、出ているみたいだ。
誰、が。
は痛みで朦朧とする中、
自分を殴ったであろう人物を見るために
ゆっくりと振り返った。
其処に立っていたのは背が高くて
顔の整った――――――
「よぉ、久しぶりだなぁ・・・?」
「・・・ブラック・・・・っ!」
がしまった、と思ったのは遅かった。
逃げようにも体が動かない。
振り返った先には
恐らくそれで殴ったのだろうと思われる
クィディッチの時、ブラッジャーを打つのに使う
バッドを握って不適に微笑むシリウス・ブラックがいた。
あぁ、なんて事だろう。
良く考えてみたらおかしな話じゃないか。
教科書を落とすなんて・・・
最初から魔法がかかってたんだ。
否、魔法で落とされた?
どっちでもいい。
『罠』だったって、気付くのが遅かった。
「・・・クソ・・っ・・」
霞んでゆく視界の中で、シリウス・ブラックが
不適に笑うのを見つめながら、は
悔しそうに下唇をかんだ。
徐々に痛みで目の前がぼやけてくる。
あぁ、
あぁ。
この人は僕をどうするつもりなんだろうか。
は薄れていく意識の端っこで
そんなことを考えた。
やがての目の前は真っ黒になった。
力が抜けて床にバタリと倒れこむ。
そのまま、意識を飛ばした。
シリウスは倒れこんだを満足げに見下ろし、
静に微笑んでしゃがみこみ、の漆黒の髪を指に絡めると
其処に唇を寄せた。
そして気を失ってしまったの耳元で静に
楽しそうに呟いた。
「さぁ、楽しいショーの始まりだ」
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