何処が偉いか、なんて考えるの
何だか馬鹿らしい。
Friend.
空を吸い取ったような
蒼い瞳を持つ持つ少年は
一人、図書館の中にいた。
古くて大きな本棚に挟まれるようにして
日陰になる狭いスペース。
向かい合って座るならば三人程で満員になるだろう。
そこで少年は黙々と羊皮紙の上で
羽ペンを走らせていた。
今日は日曜日。
微かに差し込む日の光が温かい。
少年はふ、とその光に目を細めると
本へ視線を落とし、レポートに使えそうな部分を
羽ペンで追いながら再び探し始めた。
「豪く勉強熱心だな、。」
どさっと本を机の上に置く音と共に、
頭上から聞きなれた声が落ちてきた。
が顔を上げると、
不機嫌そうな顔をしたスリザリンの少年が一人立っていて。
「あぁ、セブルスか。」
本を机におき、自分に話し掛けたのが
誰だか確認すると、は口元を緩めて微笑んだ。
少し大人びた其の微笑みは、
17歳というの年齢を考えれば
不自然なほど整っていて。
何か大変辛い思いをしたのか
そう疑いたくもなる。
そのの言動一つ一つに
“綺麗”という言葉が伴うのは
彼が持って生まれた気品の所為だろうか。
セブルスはそんな事を考えながら
イスを引き、に向かい合うように
日光に背中を向けて座る。
の羊皮紙の上に
日光は遮られた彼の影を落とした。
ギギッと木のイス独特のしなる音が
其の狭い空間に木霊し、消えていく。
「勉強熱心とかじゃないさ。
ただ、僕って途中から入っただろ?」
“ダブる”ような事はしたくなくてね、
とは苦笑いを含んでセブルスを見た。
セブルスはそのの表情を見ると、
小さくそうか、と声を上げた。
セブルスは自分で持ってきた数冊の本
の一冊に手を伸ばし、すっとの前に差し出す。
はきょとん、とした表情で
其れと、セブルスの顔を交互に見た。
少し埃臭くて、所々にある擦り切れが目立つ
黒っぽい本。
表紙には何かのツタのような
長い薬草らしき植物の絵が描かれてあった。
が首をかしげてセブルスを見ると、
セブルスの気だるそうな目がを捕らえていて。
飾りっ気のない、セブルスらしい瞳だな、
とは思った。
「うん、有難うセブルス。」
そんなやり取りが、
何となく久しぶりに感じる優しい雰囲気の中で
は微笑んで其れを受け取った。
セブルスは礼などいらん、
と小さく呟くと、今、に渡した本より
二倍ほど厚みのある本に手を伸ばし読み始める。
はそんなセブルスに目を細めて微笑みながら、
借りた本を開き、
羽ペンにインクを吸わせると
レポートの続きにペン先をのせた。
「何だよ、こんな所にグリフィンドールがいるなんて!」
それは、彼等がそれぞれの本を読み始めて
一時間ほどしてからの事だった。
この狭いスペースの入り口とでも云う所か、
本棚と本棚の間から、2人の少年がせせら笑いを浮かべ、
中の様子を見ていた。
ネクタイの色からすると、
の前に座るセブルスと同じ寮、
スリザリンだろう。
は微かに顔を顰めた。
「おや、良く見ると、
つい最近転入してきた君じゃないか?」
くくっと可笑しそうに二人のうちの一人、
ブラウン色の髪の少年が中に入りながら云った。
は本から顔をあげ、
その人物を青い瞳で捕らえる。
同じ、瞳の色をもっていた
けど。
のように澄んだ蒼ではなかった。
「、そんな転入生なんて扱い可哀想だろ?」
ブラウン色の髪の少年の後ろにいた、
もう一人の少年はニヤニヤと厭な微笑を向けた。
と呼ばれた少年は、
あぁ、そうか。と軽く笑った。
それからのほうを見ると、
馬鹿にしたように鼻で笑った。
は其の行動を、
何時しか見たあの“ドラコ・マルフォイ”に
似ているな、と微かに思った。
はぐるり、と周りを見渡すと、
机に片手をつき、クッとに顔を近づけた。
あの、瞳がを写し
いやみったらしく微笑みをみせる。
「孤立してるのか?」
其の言葉に、の瞳は
酷く驚いたように見開かれた。
は其の反応を満足げに眺めると
今度はセブルスへと視線を移す。
はショックを受けたまま、
本へ視線を落とすが
視線はただ、本に落とされただけで何も映してはいなかった。
「スネイプも大変だな、
こんなモノに懐かれてしまったなんて・・・。」
さっさと逃げてしまえばよかったものを、と
は可笑しそうに、同情をするフリをして
セブルスに笑いかけた。
セブルスは黙ったまま腕を組み、
静に目を閉じていて。
其の様子を見下すように見つめると
「グリフィンドールなんて、
程度の悪い集まり。
同じ空気を吸っているのかと考えると
怖気が走るな。」
皮肉たっぷりの言葉を発した。
其の言葉に、もう一人の少年が吹き出し、
クスクスと笑う声がの耳に届く。
は軽い頭痛を覚えた。
その時――
「私もだ。
程度の低いヤツと同じ空気を吸っているかと思うと
虫唾が走る。」
今まで黙っていたセブルスが声を出した。
はびくっとして顔を上げると、
静に目を開けたセブルスと視線が合う。
の瞳が傷ついたように揺らぐのを、
セブルスはあの、気だるそうな瞳で捕らえていた。
セブルスはそのの表情を捕らえると、
達の方へ顔を向け、静に口を開いた。
「特に・・貴様等のような程度の低い
奴等と、そう考えるとな・・・。」
「なっ」
カッとの顔に赤味が差す。
セブルスはその様子を鼻で笑うと、
立ち上がる。
木のイスが床をこする音が、
やけに大きく聞こえた。
「貴様等のような人間に指図は受けん。」
「・・・ふん、とうとうグリフィンドールの
馬鹿でも入ったか、セブルス。」
はセブルスにそう言われたことで腹が立ったのか
スリザリン特有ともいえるあの、
人を見下したような馬鹿にした表情を見せた。
セブルスは其の言葉を受けると、
一瞬目を逸らし、喉の奥でククッと笑った。
それから素早くに視線を向けるのと同時に
杖を突き出す容での腹部に当てる。
「・・・私を奴等と同じ部類に扱うつもりか?」
とても、低い声だった。
そう、まるで何かに催眠を掛ける時のような・・・
圧力のある声。
はぞっとする感情を覚えた。
杖を突きつけられたは、
ぐっとセブルスを睨み、
それからへ視線を移し、
射るような眼差しを向けた。
「出て行け。」
セブルスの目が細められる。
其の瞳が、深く暗い光を放っていて。
の知らないセブルスが其処にいた。
は眉間に皺を寄せると、
ふっと息を漏らし
「・・・スリザリンの面汚しが・・・」
小さく呟くと
踵を返し、荒々しく出て行った。
は遠ざかっていく達の背中を見つめ、
そしてセブルスに視線を移す。
セブルスは静に杖をしまうとイスに座り、
読みかけだった本を手にして其のページに視線を落とした。
「・・・セブルス。」
ようやく出した声はカラカラしていた。
喉の粘膜が乾ききっている感じで。
上手く、声が出なかった。
セブルスは文章を追っていた視線を
へ移動させ、気だるそうな眼差しを向けた。
は其の瞳に何故か
妙な寂しさを感じずにはいられず、
その・・とか、あぁ・・とか言葉を濁しながら
視線を逸らし、セブルスの肩越しに見える蒼い空を見つめた。
そして、あの、カラカラになった声のまま
言葉をつむぐように、
むしろ、搾り出すという方が正しいかもしれない。
「僕、迷惑か?」
言葉を、発した。
辛い。
苦しかった。
拒絶される自分が何故だか
とても小さな存在のようで。
消えてしまうように
儚い存在であるかのように。
遠い未来にいる、
自分を受け入れてくれた彼等を思うと
辛くて
悲しくて
寂しくて
どうしてこうなるのか
考えてしまう自分が醜くて悲しかった。
君にだけは、拒絶されたくはない。
セブルスは静に
を観察するように、
目を細めて見つめていたが
やがて、本を置くと大きな溜息をつく。
は其の溜息に居たたまれなさを感じ、
自分が質問した内容を後悔した。
目頭が、ツーンと痛くなってきた。
「迷惑と思っていれば、
私は此処には来なかったがな。」
不意に掛けられた言葉は
凄く、温かくて。
冷たくて、悲しい言葉を言われると
思っていたは、驚いて視線をセブルスに向けた。
日の光で、眩しくてよく見えないけれど。
「・・・セブルス・・・」
其の声は、ほんの少し震えていたけれど。
は徐々に湧いてくる
感謝の気持ちと温かさで
涙腺が緩んでしまった。
は何か云おうと口を開くが、
セブルスは其れを手で制止すると
「これ以上私に何か言わせるなよ。」
と、云った。
良く見えないけれど、
ほんの少し耳が赤いのは
太陽の温かさの所為だけではない事を
は何となく解った。
は静に、
泣きそうになるのを堪えて
静に微笑んでみせる。
「有難う、セブルス。」
その時
彼、セブルスが微かに目を細め
口元を微かに緩ませているのが
彼なりの微笑み方なのだと
にも解った。
だが、彼等のこの友情は
やがて仇になる事を、誰も知らなかった。
next
セブルスをいい奴にするのが目標。
因みに、この仇になる、というのは
結構重大?な事件が潜んでいたり・・・