風化-21-
-The beginning of another story.-
が散歩がてらにドリンクを補充し終え、
コートに戻った時、先程出合った
聖ルドルフの青年、裕太と越前の試合が既に始まっていた。
力強いラリーが続く。
試合を見ていると、どうやら裕太も左利きらしく、
越前は少しおされているように見えた。
裕太は、あのコートでラケットを振っていた彼は
どれだけの実力を持っているのだろう。
はデータを取っている乾の横へ行き、声を掛けた。
「・・・乾、今越前と試合をしてるのは・・・」
「あぁ、。そうか、君も知らないんだな?」
知らないって、何を・・・と言いかけたをチラリと見ると、
乾はコートの中で動き回る裕太に視線を向けた。
その時、裕太に越前が追いついた。
「アイツ・・・地区予選の時よりプレイに迷いがなくなったよな」
乾の言葉を引き継ぐように、桃城がポツリと呟いた。
乾はその言葉に小さく頷く。
「アイツは、不二裕太はもともと青学にいたんだ。」
「え・・・?」
不二、裕太?
不二って・・・・
まさか。
はハッとしたように、乾に向けていた視線を
コートの中に立っている裕太に向けた。
ドクドクと、心臓が大きな音を立てている。
「あの不二先輩の弟さん、もともと青学にいたんですか?!」
の隣で驚いた声があがった。
その声を発したのは1年のあの三人組だった。
はその3人を見る。
どうやら裕太が不二の弟だと知らなかったのは
自分だけのようだ。
「入学して半年位ね。でも青学テニス部には入らなかったよ」
乾がノートを閉じて答えた。
弟なら何故、兄と同じ青学に通わなくなったのだろう。
しかも今の部活がテニスというのであればなおさら。
は視線を裕太にもどしながらそんなことを思った。
そのの考えも、あの三人組によって質問される。
その質問に答えたのは大石だった。
「きっと、比較されたくなかったんだろう。
天才と呼ばれる兄貴と・・・」
青学を応援する声と、
ルドルフを応援する声が混ざり、
コートの周りは凄く五月蝿かったのに。
大石のその言葉だけがくっきり浮き上がるかのように
はっきりと聞こえた。
はその言葉を噛締めるように
コートの中にいる裕太を見つめる。
そして、先程散歩で出会ったあの時のキツイ目を思い出した。
――――あぁ、だからさっき私が青学だとわかった瞬間あんなに睨んできたんだ。
自分を『不二周助の弟』という目で見られると思って。
何故か寂しくなった。
誰かとの関係だけで存在を見られるという事。
其れはきっと、何よりも辛い事なのかもしれない。
自分は、自分という人間なのに。
彼が打ち返したボールは、越前のツイストサーブと同じ効果を持ち、
越前の顔面に向け、跳ね上がった。
ガシャァァン、とフェンスに物が強くぶつかった時の音がして
ボールが柵の間に挟まる。
「あれが・・ツイストスピンショット!」
誰かが大きく言った。
ツイストスピンショット・・・・
深くテニスを知らないにも
そのショットの威力がどれだけ凄いのかわかった。
ラリーの中でアレだけのバウンド力をつけるのだ。
並みの回転力じゃない筈。
思わず、息を呑んだ。
そしてあの越前もあのバウンドには追いつけないでいる。
勢い良く跳ね上がるボールにラケットが届いていない。
・・・強い。
「これが、裕太の『左殺し』」
彼が、左殺しと言われる由縁だ。
そんな異名がつくには、きっと枯葉物凄い練習をしたのだろう。
兄と別、自分の名を覚えさせる為に・・・・。
裕太はその技を連続して使っていく。
だが、越前はその技を、裕太の技である
ライジングで返そうとしていた。見ていただけなのに。
越前の能力も凄いのだ。
――――その時。
「ねぇ・・・そのツイスト何とかって奴・・・
あんまり使わないほうがいいよ。」
越前がラケットを裕太に向けていった。
には、遠くからだったが
一瞬裕太の顔に驚きの色が浮かぶのが見えた。
大きな歓声の中、その小さなやり取りは流されていく。
乾と大石、はその越前の言葉に首をかしげた。
何故、使わないほうが良いのか。
はチラリと不二に視線を向ける。
彼は、ポケットに手を入れ、無表情で試合を見つめていた。
不二は、自分の弟、裕太が試合を始めてから
一言も言葉を発していなかった。
流石に応援、とまではいけないだろうが
ささやかな言葉を発する事は可能だろう。
彼が得意な微笑みを浮べる事だって。
自分の弟が強くなり、試合をしているのが嬉しくは無いのだろうか。
今の顔は、何か深いものを感じさせる。
居心地が悪い。
は数秒不二を見ると、
再び視線をコートへ戻した。
試合は、越前の優勢。
裕太の技、ツイストスピンショットに対し
越前はドライブBという技を生出したのだ。
裕太のツイストスピンショットは、ドライブBの前では
無力だった。
否、その技を試合中に生出した越前の能力が高いのだ。
ドキドキと胸が高鳴る。
凄い、凄いと。
「ねぇ」
不図、越前が声を出した。
「別にアンタの兄貴だけじゃないだろ。
強いのは」
熱い会場の中、彼が言った言葉は
場内を駆け巡るかのように広がっていった。
小さなざわめきがおこる。
裕太も驚いていた。
スッと片手を上げ、
振り向きざまに越前は言った。
「オレは上に行くよ」
まるで、裕太に道を与えるかのような言葉。
裕太は小さく笑った。
「上にいくなんてのは オレに勝ってからにしろよ」
それからの裕太は試合が進むに連れ、
自分が負けているというのに楽しそうな表情を浮べ始めた。
笑っているとかそういうものではなく、
始めに見せていたあの、ひたすら敵意を見せているようなそんなものではない
テニスを、この試合を楽しんでいる、という感じでとてもイキイキしている。
裕太がツイストスピンショット打つ。
越前はスライディングで滑り込み、ドライブBで打ち返す。
そのボールは、綺麗な弧を描き裕太のコートに突き刺さった。
『ゲームセット!!』
裕太と越前の試合が終った。
『青学 越前リョーマ、シックスゲームストゥスリー!!』
ワァァ、と青学側から歓声があがる。
試合が終った裕太の顔は、満足げだった。
は試合の終った越前にタオルとドリンクを渡しながら
裕太のその笑顔を見、小さく微笑んだ。
試合では負けでも、もう彼はきっと
『青学不二周助の弟』として見られることは無いだろう。
何故かそんな確信が浮かんだ。
お昼下がりの風が、コートの中に吹いた。
――――――次の試合は、不二 対 観月。
先程会った、良くわからない感じの人。
青学コールの上がる中、不二はジャージを脱ぎながら手塚に話し掛ける。
「そろそろ試合やりたい?」
そう問うた不二の雰囲気は何時もの物とは違っていて
大石たちは驚いた表情を浮べる。
彼のいつも細められているその目は開き、
青い瞳が真直ぐ前を見ている。否、睨んでいるといったほうが正しいかもしれない。
「残念だけど・・・・」
ラケットを握り、
不二はコートへ向う。
少し強めの風が吹き抜けていった。
「今回はキミまでまわりそうにないから!!」
そう言った不二の表情は怒りが滲んでいた。
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