風化-22-
-The beginning of another story.-
風を切るようにボールが飛んでいく。
一瞬の迷いも、苦い顔もせず彼はラケットを振った。
思わず見入ってしまった自分が嫌だった。
あまりにも華麗なそのプレースタイル。
苦手なコースを徹底的に調べられ、決められていく。
もう後が無いと、周りが諦め始めた時風の動きは変わった。
「今のコースだけど」
青学側の応援が一層大きくなる。飲み込まれそうだ。
コートの中で追い詰められていた、否、追い詰められた振りをしていた彼は
見事な返球を見せると、言った。
自信に満ちた瞳は、どこか冷たい。
「本当は一番得意なんだ」
相手の、観月の顔が驚きと失望で固まるのが見えた。
あぁそう言えばさっき、彼とはあのコートで話したばかりだ。
自信に満ちた、上品な感じの彼。きっと自分が信じてきた戦略を崩されて
信じる物がなくなってしまっているんだろう。
同情は出来ない。これが真剣勝負というものだ。
だけど。
どうして、身体が震えるのだろう。
「弱点を他人に悟られる様なマネはしない・・・・不二は」
乾が隣で呟いた。
何となくその言葉がしっかり聞こえて全身に寒さが走る。
悪寒、だろうか。何に対して?悪寒ではないのだろうか。
頭が混乱してきた。
それでも、何故か彼等の試合に眼が行く。
否、彼等ではない。彼、不二周助に、だ。
は知らないうちにフェンスを力いっぱい握り締めていた。
そうでもしないと、何かに、引きずり込まれてしまいそうで。
・・・・きっとこう思った時点で引きずり込まれていたんだろうけど。
観月の頼りない背中に涙が浮かんだ。
これは、ゲームだ。試合なのだ。
何度自分に言い聞かせても、それは何故か怖かった。
『ゲームセット 7-5 青学 不二!!』
観月は、どうする事も出来ないまま
ゲームを落とした。
己の集めたデータを信じ、相手を舐めてかかった結果だった。
観月の敗北の瞬間、青学側から大きな歓声が上がる。
応援していた部員たちはコートの中の二人を観ては居なかった。
ベスト4進出という大きな結果に喜び、そして歓喜の声を上げ
お互い顔を見合わせ嬉しそうな笑顔を浮べる。
だけど、は見てしまった。
コートの中、敗北という二文字と疲労に屈み込む観月に
冷たい視線を向ける、不二の姿を。
互いに口を開いていたが、の居る所からは
周りの歓声が大きすぎて聞こえなかった。
只感じたのは、
冷 た い
その事だけ。
背筋をひんやりとした何かがが通っていった。
悪寒、だった。
「やった 不二先輩大逆転だ――!!」
「すごいよ、あれから1ポイントも観月に与えないなんて!!」
周りにいた青学の部員たちは歓声とともに一斉に不二に駆け寄る。
その流れの中、自分も其処に行かなくてはいけないのが解っているのに
脚が地面に吸い付いたように動かない。
は深く息を吸うと何とか
きつく握り締めていたフェンスを離し、
喜びに満ちた笑顔で不二の元に走っていく部員達を見つめた。
フェンスを握り締めていた手が、酷く痛かった。
菊丸から受け取ったのだろう、タオルを首にかけて
柔らかに笑う彼の周りには人が溢れていた。
其処から離れているのは、自分だけ。
―――――心臓がバクバクと大きく鼓動する。
周りから見れば、其れは試合が終った直後、
勝利を収めた選手に対する誉をたたえているのだから実に清々しいもののはずで、
しかし、その姿、彼の姿を見ると嫌なものが胸に湧き上がる。
あの時の、観月を見下ろすガラスにも似た彼の瞳は
何時しかあたしを捕らえた瞳にそっくりで、否同じだったかもしれない。
あの瞳があると、あたしは動けなくなる。蛇に睨まれたカエルのように竦んでしまう。
もう、あの瞳を見たくない――――――――。
が心の其処で強く願ったのと同時に
は自身を抱きしめた。何故かとてつもない孤独が襲った。
孤独というのにはあまりにもかけ離れていた空間で
自分の周りだけがばっさり無くなってしまった、そんな感じだった。
「・・・・・っ!」
人だかりの中心で微笑む彼から目を反らせない。
体が言う事を聞かなかった。
正しくは、あの瞳がをねめつけていたからで。
一人離れたの姿を、不二の蒼い目は捉えていた。
不二は、小さく笑った。
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