風化-20-
-The beginning of another story.-
菊丸達の試合が終わり、
桃城たちの試合も終った頃
は一人、会場の中を歩いていた。
頭を冷やしたかったのだ。
一度、コートを離れたとはいえ、まだ変な考えが頭の中に残っている。
それが嫌で、消したくて、歩いていた。
太陽が真上から当っていて、
見る影は殆ど伸びていない。
お昼位だろうか。
お腹はまだすいていない。
何か食べたいとか、
何かの見たいとかそういう状態じゃなかった。
人間というのは本当に複雑で、疲れる。
人間関係とか、どんどん複雑になっていって
何時の間にか複雑に考え込む自分が居る。
あの時の手塚の放つオーラは会場を飲み込んでいた。
それが何時にも増して研ぎ澄まされていたのは
彼女が、がそこに居たからだろうか・・・?
ハッ、と自分がまたそう考え込んでいたことに気付き
足を止める。
強い風が吹いて、髪の毛が視界を軽く遮った。
小さな自嘲が浮かんでくる。
「・・・もう考えるのはやめよう」
自分が何となく、何かを押さえつけた感覚がしたのは
きっと、気のせいだろう。
「・・・・?」
不図、耳を澄ますと
風の乗って聞こえる、ボールを打つ音。
試合での音じゃなく、個人練習で壁打ちをやっているような
そんな感じの音。
は何となくその音がするほうへ足を向けた。
歩くに連れ、その音もはっきりと聞こえてくる。
樹の立ち並ぶ中にあるコートからだった。
フェンスも無く、人気の少ない練習場。
壁にはボールを打って練習したと思われる痕が沢山残っていて。
その壁に向ってひたすらボールを打ちつける一人の少年。
一心不乱にラケットを振るその少年は、
そのコートの傍でが入ってきたことに気付かないようだった。
はその様子を見つめる。
何だか、見ていたくなったのだ。
一生懸命な姿はどこの部活でも変わらない。
その練習を見てきたにとって、
青学以外の選手でも頑張っている所をみると自然と口元が緩んでしまう。
着ているジャージからすれば、聖ルドルフ学院。
今青学と対戦している学校だ。
菊丸と大石は負けてしまったがいい試合をしていた。
乾と同じようなデータを取るマネージャー兼、選手が居る
なかなか手ごわいチームらしい。
乾の話だと、この部活のメンバーは殆ど部活に出ず、
スクールに通っているらしい。しかもその殆どは集められた
練成メンバーだという。
実力がある学校だ。
はそんな情報を引っ張り出して思い浮かべていると
打ち所が悪かったのか、少年が打っていたボールはその少年の頭上を超え
のところまで転がってきた。
はそれを拾い上げる。
ボールを拾い、顔を上げると
少年が驚いた顔をしているのが見えた。
自分以外に此処に誰かが居るとは思わなかったのだろう。
はそのボールを少年に向って投げる。
それは綺麗な弧を描き、少年の手の中に収まった。
黄色いボールが、青空の中に浮かんでコントラストが綺麗だ。
「あ、ありが・・・」
手の中にボールが収まったのを見て
驚いた顔を緩めて少年は言う。
そして、ボールを投げた人物の服装を見て表情を引きつらせた。
「・・・青学」
少年が発した言葉は冷たい色をしていた。しかも、その言葉は学校名。
は思わず、え、と声を小さくもらした。
「ごめん、気に障ることしたかな」
「・・・」
何か無礼なことをしてしまったのだろうかと
は謝罪の言葉を漏らす。
その言葉に、少年は表情を変えずにを見ていた。
否、睨んでいるといったほうが正しいかもしれない。
はその視線を受けると気まずそうに俯く。
風が枝についている緑の葉っぱを揺らす音だけがそこに流れた。
「裕太君・・・おや、そこに居るのは誰です?」
「あ、観月さん」
ピリピリとしていた空気が一瞬緩んむ。
違う声がして、少年がその声に答えた。
少年の名前は、裕太というらしい。
は彼等の視線が自分に向けていられるのだとわかると
顔を上げた。
そこには、ルドルフの長袖のジャージを着た、
癖っ毛の青年が立っていて。
腕を組んで軽く笑みを浮べてコチラを見ている。
その癖っ毛の人は、んーっ、と声を出すと
前髪に人差し指を絡めてまじまじとを見た。
「アナタ、青学のマネージャーですね」
「えっ、あ・・そうですけど」
「んふっ、今更情報収集ですか?」
「は・・・?」
独特な喋り方をするその人に、
は一瞬何を言われたのかわからず間の抜けたような
声を漏らす。
それから何を言うんだろう、というような目で見た。
一応初対面なのに、どうして取り方によっては失礼とも思えるような
言葉を言うのだろう。
「私は別に・・・ただ会場を見て回っていただけですよ」
「そうですか・・・今日は良く晴れていますからね」
「・・・・・」
かみ合わない話に、思わず眉根に皺を寄せた。
敵意を出されたかと思えば、のどかに天気の話。
よくわからない人だ。
がそんなことを思っていると、
その人は空を見上げ、腕を組んだまま前髪をいじった。
それから時計を見るとおや、と小さく声を漏らしコートを出ようと歩き始める。
そのままコートから出て行くのかと思っていたが、
のすぐ目の前に来ると足を止め、ニッコリと笑った。
その人の後方で、裕太という少年が驚いているのが見える。
「僕は聖ルドルフ学院中3年の観月です。」
「・・・青学のマネのです。」
観月、と名乗った男は
満足げに頷くと、んふっ、と独特な笑い声を残し
「よろしく、さん」
と一礼しての横を通って行った。
その時、ふわりと石鹸のような、おそらくデオドラントか何かの
匂いがかすかに鼻をついた。
――男に人なのに、綺麗な匂いがするんだな
は振り返り、遠ざかっていく観月の背中を見つめた。
プライドの高い人のオーラ、が空気を通して、太陽の熱い光に混ざって身体に刺さっているみたい。
眩しい太陽を見上げ、手でその光を遮ると
は裕太の方へ顔をむけた。
の視線を受けて、彼は吃驚したような顔をする。
「裕太君、だっけ」
「な、なんだよ」
警戒心を解こうとしない裕太を、は小さく笑った。
その小さな笑いに、裕太は顔を赤らめて不機嫌そうな顔をする。
表情はずっと警戒したような、相手を睨んだような、そんな感じなのに、
性格は弟にしたいくらいな素直、というかそんな不思議な感じの子。
は、裕太には年上の兄弟が居るだろう、と思った。
「観月さんと同じ学校だよね?そろそろ試合始まるんじゃない?」
が首をかしげて言った瞬間、
裕太は弾かれたように目を見開いて
それから慌てたようにラケットをバッグに詰め込んだ。
そしてそのまま慌しくコートから出て行く。
はその姿を笑いながら見つめた。
「頑張れ、裕太君!」
コートを出て行く裕太が、一瞬笑ったように見えた。
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