風化-19-
-The beginning of another story.-
「遅い・・・・」
時計を片手に持った竜崎先生は苛々したように言葉を吐いた。
時間は9時54分。朝陽が昇りきって、少し蒸し暑さを出し始めた時間帯だ。
「何をやっとるんだいリョーマは!」
竜崎先生の苛々の原因は越前だった。
10時までに8人そろって受付をしないと
その時点で都大会には出られない、つまり失格である。
何時も遅刻をする越前だが、遅れてはならない今日という日に
まだ会場に姿を見せない。
竜崎先生のイライラが最高に達した時、
遠くから大声が響いた。
「おーい、越前から連絡があったぞ!!」
大声で走りながら報告したのは大石だった。
大石は連絡を受けてほっとしたのか、表情は少し緩んでいる。
何でも、妊婦さんを助けたらしい。
その報告を受けたメンバーは
やっぱり、といったように顔を見合わせて
小さく笑みをこぼした。
「嘘だ」
桃城や海堂はそれぞれ否定をしていた。
はそれを聞くと不思議そうに隣にいた桃城に声を掛ける。
「何で嘘だって解るの?」
眉根に皺を寄せて
解らない、といった表情のに
桃城は驚いた表情を浮べ、軽く笑った。
「あぁ、そうか。先輩、アイツの寝坊グセ知らないっすからね。」
「寝坊グセ・・・寝坊か。」
「だからあれは言い訳っすよ。」
なるほど、とが納得したように
大石に視線を向けると、桃城はその
視線の先に自分の視線も合わせて笑った。
「あわれっすよね、大石先輩。騙されてるの気付いてなすっすよ」
「・・・そうね」
ジャージのポケットに手を突っ込んで楽しげに笑う桃城をよこめに、
は今頃急いでいるだろう、越前の事を思った。
そして、その越前にまんまと騙されている、純情な大石に
思わず笑いがこみ上げてきたが、其れを抑える事はできなかった。
「これで青学の4勝0敗だ」
越前に嘘をつかれたということに気付かないまま
越前の試合を見ていた大石は嬉しそうに呟いた。
あの後数分遅れて越前が到着した。
その間の受付などは堀尾に海堂のジャージを着せ、
帽子を被らせて代役に立てたのだが、
海堂が堀尾からジャージを返してもらった時には泥が沢山ついていて
ご立腹していあのは言うまでも無い。
そして到着した越前は既にアップを済ませていたらしく、
鎌田中の選手を圧倒し、完全試合を達成した。
コートから出てくる越前と入れ違いに入っていくのは、
手塚だった。
同時に水を打ったように静になるコート。
「・・・・いよいよ出るぞ」
「手塚国光」
はその後姿を見て、すぐに視線をそらした。
何となく、見ていられなかったのだ。
もう吹っ切れたのだから、今更モヤモヤすることは無いのだが
彼の姿を見ると、それが復活してきそうで嫌だったのだ。
試合を応援しなくても、応援する彼女は来ている。
は、ベンチのすぐ後ろに居た。
が思った通り、手塚はあっという間にゲームを終らせた。
はずっと、遠くからそれを見ていた。
何だか気分がさえず、コートを離れる。
頭を冷やしたかった。
しばらくしてコートに戻ると、
ルドルフとの試合が始まっていた。
は思わずフェンスにしがみついた。
「・・・英二・・・」
俊敏な動きを見せる英二が、動いていなかったのだ。
換わりに大石がその分をカバーしている。
は慌てて乾に声をかける。
乾は慌てたを見て、ノートを開いた。
「乾、何があったの?」
「あぁ、対戦相手の金田・赤澤ペアなんだが、
その赤澤・・・色黒のほうだ、がブレ球を打つんだ。
菊丸は動体視力が良すぎるからね。そのボール全てを目で追ってしまったんだ。
そしてこの熱さ。今、体力は底をついているよ」
「そんな・・・」
まさか、能力が自分の首をしめているなんて。
は菊丸に視線を戻すと、フェンスを掴んでいた手に力を入れた。
「・・・頑張れ、英二・・・」
の呟いた言葉は、
大きな声援の中かき消された。
その後、何とか巻き返したかに見えた菊丸達だが
充電が切れてしまった英二は上手く動く事が出来ず、
負けてしまった。
大石に肩を借りながらコートから出てくる菊丸を
はドリンクを渡しながら迎えた。
「充電・・・切れちった」
へへ、と小さく笑う菊丸に、
は静に微笑む。
大石にもドリンクを渡すと小さく言った。
「お疲れ様。」
「・・あぁ」
大石は小さく笑う。
それを見て、菊丸も笑った。
良い風が吹いていた。
next
時間が・・・