風化-16-
-The beginning of another story.-
目を開けると空はまだ薄暗い。
何時かと思って目覚し時計を見ると
5時30分まえだった。
まだ目覚ましもなっていない。
は目覚し時計をベッドサイドに戻すと
そのまま腕で目元を覆って息を吐き出した。
今日は日曜日。
学校は無いが部活がある。
しかし、この時間に行っても何も無いし、
集合時間には早すぎる。
かといってもう一眠り、という気分でもない。
はそのままゴロン、と横に寝返りを打つと、
窓際のカーテンから薄い光が入っている場所を見つめた。
その光は本当に軽い物で
とても気持ちよいものだった。
はそれを見ているうちに
ベッドに居る、という気分になれなくて
もぞもぞと起き上がるとジャージに袖を通してリビングへ降りていった。
リビングはとても静かで、カーテンから入る僅かな光が何となく爽やかだ。
庭でさえずる雀の声が心地良い。
テーブルに視線を向けると、
其処には昨日の夜飲んだまま片付けなかったマグカップが一つ、置いてある。
その様子を見ると昨日も両親が帰ってきていないという事がわかったが
不思議と寂しい、という気持ちは生まれなかった。
もう、慣れてしまったんだろう。
はマグカップを取ると、キッチンへ持っていく。
無機質な白だけのシンプルなマグカップは、
どこかのような印象を与えた。
はそのマグカップを洗うと
そのままコーヒーを沸かし、其処へ注いだ。
そしてサラダとトーストを作るとそれぞれ皿に盛り
再びリビングへ戻っていく。
テーブルに置くと、ふんわりといい香が漂った。
はカーテンを開け、窓を開けた。
すがすがしい朝の匂いが一気に部屋に入り込み、
束ねていないカーテンを揺らす。
気持ち良い。
は伸びをするとしばらく庭を眺め、
そして一人、テーブルに戻り早めの朝食を取った。
一人で取る事にもすっかり慣れてしまった朝食を終え、
片づけをし終わって時計に目を向けた。
時刻は丁度6時。
部活が始まるのは7時30分なので一時間半もある。
はTVのリモコンを手にしたが、特に見たいという興味もなく
そのままテーブルの上に戻した。
そして考える。
これから何をしようか、と。
家から学校までゆっくり歩いて20分位なもので
今から出たとしても一時間前には到着してしまう。
・・・まぁ、それでもいいだろう。
細部まで出来なかった片付けや
スコアの整理など、平日の部活では出来ない事が沢山ある。
しかも今、マネージャーとしての自分は部室の鍵を持っているので
大石が来なければ入れない、ということも無い。
そうだ、早いけれどもう学校に行って整理を始めよう。
そうすれば平日に出来なかった事が片付く。
はそう考えると、
もうすでに用意してあったカバンを掴み、家を後にした。
「やっぱ朝の空気は綺麗だ・・・」
一人道を歩きながら小さな独り言がこぼれた。
だけどそんなことは気にしない。
朝方の住宅街の道は、本当に人が少ない。
しかも今日は日曜日だ。誰が朝早く起きて外なんか歩こうと思うだろう。
歩いていくに連れ、青春学園の門が見えてきた。
大きくて、新しい校舎。
朝の空気には少し不思議なバランスを齎してくれているが
いつものような、埃っぽさは無い。
むしろ、すがすがしい。
小学校の頃のキャンプを思い出したりもした。
は門が既に開いている事を遠めに確認すると
其処へ向う。
途中、何かの音がして立ち止まってそのほうへ顔を向けた。
ザッザッと地面を擦るような音と、一定のリズム。
道の向こうから、誰かが走ってくる。
朝の静けさの中ではそれすらも良く響く。
その影が近づいてくるに連れて
段々と様子も見て取れるようになってきた。
頭にバンダナを巻いた、ノースリーブのあの少年は・・・
「・・・・海堂?」
のその声に、その人物
海堂は顔を上げてを見た。
その目に、一瞬驚きの色が浮かんだがすぐに戻った。
海堂はの前でスピードを落とすと足を止めた。
「おはよう、海堂。自主練?」
「・・・っス」
「偉いね」
随分長いこと走っていたのだろう。
既に汗びっしょりだ。
きっとこのまま家に帰り、お風呂に入ってまた学校へ来るのだろう。
2年にしてのレギュラー。
こうした影の努力が実績に結びついているのだ。
「桃城とは一緒に練習しないの?」
そう言った言葉は、ちょっとした試しみたいなものがあった。
お互い嫌いあっている、と前に聞いた事がある。
本当に嫌ならば、きっとこの言葉にムッとするに違いない。
「・・・フシュー」
の予想は正しかった。
海堂は不機嫌そうな瞳をに向ける。
もともと『マムシ』と妙なあだなを桃城につけられるくらいなのだから
目つきはあまり良いほうではない。
も流石にコレには少しドキッとした。
「じゃぁ、海堂は桃城がレギュラーじゃなくなった方がいい、と?」
その言葉に、海堂はギロッとを睨みつけた。
思わずひるむ。
海堂はしばらく黙ると、
不意に視線をそらして小さく呟いた。
「桃城のヤローは嫌いだ。だが」
「レギュラー落ちなんかしたら俺の気がすまねぇ」
そう言った、海堂の瞳は強かった。
は目をそらされたために良く見えなかったが
それでも横目からそれが見て取れた。
は何となく嬉しくなって、小さく笑った。
「それ、ライバルって言うんだよ」
「・・・フン」
海堂なりの表現の仕方なのだろうか。
一年の頃から競い合って、ずっと。
二年となった今、彼等は互いにいい刺激をしあい
成長している。
嫌いだ、口ではそう言いながら
心ではお互いをライバルだと捕らえて生活をしている。
ライバルとは、そういうものだ。
「じゃ、私先に行くから。海堂は一度家に戻るんでしょう?」
「・・・」
「じゃ、朝練遅れないように!」
はそう言って、海堂の背中を見送った。
ほんの少し、心地良かった。
青春って、本当に素敵だと思った。
そしてそう思ったことを後で笑った。
遠ざかっていく海堂の背中を見つめて
何となくテニス部の今まで知らなかった部分が見えてきて
嬉しいと感じた。
静かな部室に、もうすぐ騒がしいメンバーが到着する。
それにあわせた準備を始めながら
は一人微笑を零した。
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