風化-15-
-The beginning of another story.-
「最近顔色よくなったね」
暑くて窓を開けて涼んでいた時、
由紀子がパックのオレンジジュースを飲みながら言った。
窓枠にもたれながら由紀子のプリ帳を見ていて、
は、ん?と首だけを由紀子にむける。
の肩過ぎまである長い髪がゆれた。
「アンタ、前まですっごい顔色悪かったけど
最近は大分顔色良くなってきたからさ」
「・・・由紀子」
何だか、大丈夫みたいだね
そう言って笑った。
由起子の安心したような笑顔が
には嬉しいような、複雑な感情を芽生えさせる。
こんなにまで心配をしてもらって
普通なら、面倒な事情を抱えている人のそばから
離れていきたがるのが人間の心理のはず。
だけど、由起子はの気持ちを理解した上で
心配してくれたり、傍にいてくれたりする。
やっぱり、親友って言うのは凄く気持ちの良い物だ。
は笑みを浮べる。
「うん。アイツの事はもう、吹っ切れたから」
そのの言葉に、
今度は由起子が驚いた顔をしたが
すぐに笑って、そっか、と小さく呟いた。
安心していいのだろうか。
は手塚の事が忘れられなくて苦しんでいた。
その傷に、また爪を立てたのは不二。
正直言うと、不二のことが好きだった。
何時も笑ってる。
あんな笑顔が出来たらいいな、とかそう思って
気付いたら目で追っていて。
だけど。
親友を傷つけるのは許せない。
好きだった過去の自分がばかばかしく思えてくるくらい。
笑顔は、嘘の物である事にも最近気付いて。
余計に腹が立つ。
あんな男を好きだと思っていた自分にも、
の傷を抉る男も。
手塚も嫌いだ。
何もかも完璧であるくせに
自分の好きになった女を簡単に捨てて、乗り換えるんだから。
そんな男の何処が良いのだろう。
元気になってきたを見るのは嬉しかった。
だけど、その笑顔がまた消えるんじゃないかって思うと不安になる。
菊丸君も、部活でのことを守ってくれていると聞いた。
の傷が癒えるまで、菊丸君と私で
の笑顔を保ちつづけたい。
やっぱりさ、親友には笑っていて欲しい。
いつか、2人でこのことを笑って語り合える日が来るといいな。
由起子はそんな事を考えながら
また一口ジュースを口に運んだ。
夏の暑さに火照った身体に
オレンジジュースの爽やかな香が届いた。
「・・・で、Xには7が入る。そして-を取って・・」
カッカッと黒板にチョークが当る音と
先生の数式を説明する声が静かな教室の中を満たす。
何時も騒がしいくせに、授業になると人が変わったように静かになる。
まぁ、それは受験、という課題が迫っているからなんだけど。
だけど、受験なんてこのまま系列で行く人間にとってはカタチだけだ。
それでもあまりにも酷い点数を取ればいくら系列とは言え、
高校の入学式に姿をあらわすことも名前を連ねる事も出来ない。
だから、皆最低な点数を取らないように必死に勉強するわけだ。
まぁ、中には暑さにやられて瀕死の人間も数人居るだろうけど。
(菊丸は机に突っ伏して暑い、と喘いでいる)
は黒板を見つめ、
そしてルーズリーフにその数式の説明を書き込むと
パラパラと教科書を捲る。
3年になったばかりの頃は真新しくて、新品の匂いがした教科書も
今では角が少し折れたりしていてもう新しい匂いもしない。
教科書の残りページもあと三分の二ほどになって、
あぁ、早いな。なんて暢気に考えた。
時計を見て、残り15分ほどであるのを確認すると
何となく視線を窓の外に向けた。
いけない癖だ。
この行動は習慣ずいてしまっていて、
気付くとこうして外を眺めている。
空は相変わらず蒼くて、白い雲が悠々と泳いでいる。
窓の傍には木の青々とした葉っぱが見えて。
碧と蒼のコントラストが夏、という季節感を思わせる。
蝉の鳴く声が耳障りだ。
蝉が鳴けば体感温度は一気に上がるから。
よけいに暑くて仕方が無い。
東京の夏は、コンクリートだらけだから
余計に暑いんだと社会の先生がいつか言っていた。
あぁ、そうだ。
こうも暑いなら部活の時に余分にタオルを持っていく必要がある。
それと、すぐに水分も奪われてしまうだろうから
喉の渇くような味の市販のスポーツ飲料は止めて
飲みやすいレモン水か何かを作ろう。
はぼんやりと考えた事を
ルーズリーフの数式の横に小さく書きとめた。
しばらくして、授業の終了を継げるチャイムが鳴った。
ガタガタと机を動かす音が耳に届く。
お昼の時間になったので、女子はそれぞれの机を動かして
向かい合わせにしてお弁当を広げる。
女子特有のグループが出来る。
と由起子はあまりこの習慣が好きではなかった。
何かというと固まりたがる。
正直に言うとあまりメリットのないこの行動が
非常に不快だったのだが2人は何も言わなかった。
だけど、このクラスは比較的女子同士の仲が良いので
あまり大きなグループは分かれては居なかった。
あまり他人を縛る、ということもしない。
お陰で誰が何をしていようといじめが滅多に起きないのが良い所だ。
お弁当を広げ、さぁ食べようという時
由起子が突然立ち上がった。
「あっ私今日お弁当忘れてきちゃった!!」
ノー!!と叫ぶ由起子を
周りの女子達が笑ってからかう。
「馬鹿だね、由起子!」
「私の上げないからね」
ケラケラと笑うにぎやかな少女達。
由起子はうーん、と考えて
徐にの肩を掴んだ。
そして、まだ広げきっていないお弁当を持ち、
ビックリしているの顔ににんまりとした笑顔を向けた。
「っということで、!一緒に食堂にいこ!!」
「・・・は?」
いきなりの事では固まる。
そしてグイグイと腕を引っ張られて半ば引きずられるように教室から連れ出された。
途中、一緒に食べていた少女達に助けを求めたが、
ケラケラ笑いながら「頑張れ〜」と流されてしまった。
・・・薄情者め
は諦めて由起子の隣を歩いた。
食堂には沢山の人が集まる。
購買もあるのだが、そこで買うよりも
食堂のほうが温かいモノや好きな物が食べられるという事もあり
お昼時の食堂は大変混雑していた。
あまり人ごみが好きではないにとって軽い地獄でもあったりする。
由起子はその事をわかっていないのだろうか。
「やっぱり計画変更〜」
由起子は嬉しそうにそう言うと、
食堂への道を変え、購買のほうへ歩いていった。
は首をかしげてその後を追う。
由起子は自販でパックのオレンジジュースを買うと、
サンドイッチとメロンパンを買った。
由起子はメロンパンとオレンジジュースが好きらしい。
しかも100%じゃなきゃ嫌なんだそうだ。
由起子は財布をポケットに仕舞うと、
に悪戯っぽい笑顔を浮べて
「屋上に行って食べようか」
そう言った。
「やっぱり屋上なんか嫌だよ」
扉を開けた先にあったのは、真青な空が広がる屋上。
いつもならカップルたちがお昼を食べたりしているのだが
今日は居ないらしい。
入り口のところで弁当の入ったカバンを握り締めて
は思い切り顔をしかめた。
一足早く屋上のアスファルトに足を着けた由起子は
気持良い、といわんばかりに伸びをしてを見た。
「何でー?」
「暑いじゃん。」
アスファルトになんか座れない、といったに
由起子は大丈夫だから、と言いながらスタスタと歩いていってしまう。
は仕方ない、というように溜息をつくと
暑い空気に覚悟を決めて足を踏み出した。
由起子が行った場所は、入り口の逆方向で、
丁度日陰になっている場所だった。
そのお陰でアスファルトは丁度いい冷たさ。
由起子はそそくさと座り、早速サンドイッチにかぶりついていた。
「ね、大丈夫でしょ!」
そう言って笑った由起子の笑顔に、
不満面だったも笑った。
お弁当を膝の上に広げ、空を見上げると
窓から見るよりも広くて綺麗な青空だった。
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メンバー出てないし・・・