風化-14-
-The beginning of another story.-















手塚の事が吹っ切れたと思った翌日からの部活は
凄く集中できた。


心に引っかかっていた人物が、一人減ったからだ。
減った、という言い方は可笑しいかもしれないけれど、
凄く神経を使う相手は一人になったのだから
言い方はあっているのかもしれない。




だけど、やっぱり部活には重たい何かがあった。




手塚の事について吹っ切れた自分は
きっと今までに無いくらい活発になってるのかもしれない。
だからだろう。
何時もより、視線を感じる回数が多くなったのは。



監視されるように感じていた視線は
ずっと付きまとう。





誰の視線か、それはもう分かっているけど。



だけど、怖いという感情に変わりは無かった。












「・・・先輩」


「うっ」


何時ものように水道でドリンクを作っていると
不意に声を掛けられて驚いた。
今はそれぞれ自主練習の時間だから声を掛けられても
驚く要素はないはずなのに、違う事を考えていた時に
声を掛けられたので思わずビクッとなってしまった。


それにしても『うっ』って・・・
・・・恥ずかしい・・・





紅くなりそうな顔を押えて振り返る。
振り返ると、汗だくになり深く帽子を被った下で
軽く笑っている越前リョーマと目が合った。




「・・・何笑ってるの」

「先輩、驚きすぎ」

「・・・」




失態だ。
少し生意気だと言われていたけど
今は其れよりも恥ずかしいという感情のほうが勝っている。


口角を上げて小さく笑う越前を
は少しの身長差で見下ろしてやった。


越前はムッとしたらしく、
笑うのをやめた。
もそれに合わせてふっと力を抜いた。





「それで、何か用、あるんでしょ?」






何?と首をかしげる
越前はずいっと手を出す。


「濡れたタオル」


越前はそうとだけ言う。

無愛想だな、なんては思いながらも
あぁ、と小さく声を出すと蛇口に向かい、
バケツの中からまだ濡らしていなかったタオルを水に濡らして渡した。



「どもっス」



越前はタオルを受け取ると
気持ち良さそうに顔を拭いた。
よく見れば他の部員(レギュラー以外のことだが)よりも
汗のかき方が半端じゃない。
ポロシャツはぐっしょりと濡れていて、
見ていても蒸し暑そうだ。





「凄い汗だね。皆にドリンク配ったんだけど足りないかな」



腕を拭いていた越前は
不意に出された疑問に顔を上げる。
そこにはコートの中や外に居る部員達を気遣わしげに見る
がいて。
越前は少しその横顔を見つめると
ふぅ、と息をついた。




「少し」




返って来た返事があまりにも短い為、
は首をかしげて越前に視線を向ける。
その視線を受けて、越前はタオルを返した。





「そっか。解った。有難う」




そのタオルを受け取ると
は『少し』の意味を理解して笑った。
越前はその笑顔を見ると照れたように帽子を深く被りなおす。
そしてラケットをを握りなおすとコートのほうへ向って歩いていった。



は小さく笑うと
歩いていく越前の背中に声を掛けた。





「練習、頑張りなー」



越前はその声に
ラケットを持っていないほうの手を軽く上げただけだった。




は其れを見て微笑むと、
越前に言われたことを実行する為、何時もより
少し多めにドリンクを作り始めた。





























先輩がマネージャーになったときは
少し違和感があった。
それが何だか探る前に大体のことは分かったけど。
やっぱり、部長と付き合っていたことに関係があったみたいだった。
入部した時はそんな事知らなかったし、そのときにはもう
部長にはさんっていう彼女がいたし、
正直自分には関係ないと思っていた。


だけど、先輩がマネージャーになって
先輩の様子を見ていたら
何だか部長に腹が立ったし、
先輩が怯えているのは部長一人だけじゃない、ということもわかった。





たまたま見てしまった。
不二先輩が先輩に迫っている所を。
凄く怯えていた先輩を見捨てないような気持ちになって
だけど、その時の不二先輩の雰囲気があまりにも怖くて。


そしたら、菊丸先輩が先輩を連れて行った。
少し安心したけど、不二先輩からはしばらくあの雰囲気が抜けなくて
正直、こわかった。




先輩はマネージャーの仕事を精一杯やってくれた。
部活で倒れた時は凄く驚いたけど
きっと、あれは部長に何か言われたんじゃないだろうか。






でも、今日の先輩からは何か吹っ切れた感じがして
前よりは不安定ではない感じがして。
















きっとあの人は大丈夫だ。



今日の様子を見てそう思った。
















越前はそんな事を考えると
ボールを上げて、壁打ちを始めた。








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