風化-06-
-The beginning of another story.-
教室を飛び出して闇雲に走っていたら屋上に辿り着いた。
もうすでに始まりのチャイムが鳴ったあとなので
誰も居なかった。
はフェンスに駆け寄ると息を吐き出す。
あんな事をされたなんて。
自分が別れてから急に態度が可笑しくなった。
彼の存在は知っていた。
何せあの親衛隊ができるほどの男子テニス部のレギュラー。
容姿はなかなかいいみたいで
実際、自分の友人数名もカッコイイというくらいなのだから
名前と顔は知っているくらいだった。
それが、何故自分に興味をもつのか?
単なる悪ふざけにしては度が過ぎる。
もし、さっきの事がクラスメイトは愚か、
他の人に知られたなら自分はどうなる?
虐められる事は必須だ。
「・・・っ・・」
泪は、幾ら流しても枯れない。
いっそのこと、この感情すら枯れてしまえばどれだけ楽だろう。
彼の瞳に、一瞬だけどあの人をかぶせてしまった。
今はもう、違う人をみつめる力強い瞳。
「・・国光・・・」
ああ、私って本当に往生際が悪い。
ふふ、と自嘲気味に微笑を零した。
「!!」
フェンスにもたれかかって空を見上げていると、
屋上の入り口が勢い良く開いて自分の名前を呼んだ。
驚いて其処を見れば、同じクラスの赤い髪の毛が特徴の――――
「英二?」
菊丸英二が肩で息を切らせて立っていた。
菊丸はの姿を発見して安心したのか、
強張らせていた表情をふっとといて静に歩み寄った。
静に歩み寄ってくる菊丸を呆然と見詰めていたは、
は、とある事を思い出した。
それと同時に体が震えだす。
「・・」
「やだ・・・っ!来ないで!!」
がそう叫んだのと同時に、
菊丸は驚いて足を止めた。
を見れば理由がわかる。
顔を真青にさせて震えている。
彼女は、さっきの現場を見られた事と
不二にされた事で男性恐怖症になりかけてるんだ。
そう思ったら、胸がちくりと痛んで
不二を憎む気持ちが生まれた。
でも、此処での前から自分が居なくなったら、
誰もを守る人が居なくなるし
彼女が一人になってしまうのは目に見えていた。
「・・・」
菊丸は目をきつく閉じると息を思い切り吸い込んだ。
そして、閉じていた目を開く。
そして、また一歩足を踏み出した。
「来ないでよっ!!」
は悲痛に叫ぶと菊丸と反対のほうへ走り出した。
菊丸は其れを追う。
菊丸はテニス部だから足は早かった。
あっという間には追いつかれて腕をつかまれた。
は必死になって其れを解こうともがく。
「!!」
菊丸は名前を呼ぶと、自分の腕の中にを引き込んだ。
決して低くは無い彼女の身長は、菊丸の肩口に頬が当るくらいだった。
は一瞬驚いて抵抗する事を忘れていたが、
やがて菊丸の胸板を押して逃げようとした。
菊丸はそれでもが逃げないように腕に力を込める。
やがてから力が抜けていった。
換わりに聞こえたのは嗚咽。
「・・・なんで私なの・・・」
どんどん、と力なくこぶしをぶつけてくる。
「何で・・・っ」
菊丸はの肩にそっと手を添えると、
顔を覗き込むようにした。
そして、泪を拭う。
「、さっきの事は誰にも言わない。
君の事は・・・」
「俺が守るから。」
泪でよく見えなかった。
どんな顔をしてるのか、
どうしてそんなことをしてくれるのか。
「英二・・」
顔を上げた先には、優しく微笑む彼が居た。
それから、菊丸は約束したように
クラスでもずっとそばにいた。
菊丸が傍にいることでは少し安堵感を覚え、
不二はには近づかなかった。
少しずつ、元の平穏な生活に戻り始めていた。
そんな時。
数学担当で、男子テニス部の顧問である
竜崎先生に呼び出された。
「今マネージャー不足でこまっておってね。
なかなか適役がみつからんかったんだが、色々君の事を聞いてね。
おまえさんになら適役じゃろうと思ってな。」
職員室の、竜崎先生の机の上は、
数学の教科書や参考書のほかにテニスに関する資料や
なんかが沢山置かれていた。
「私が・・・ですか?」
はぎゅっと手を握り締めた。
無理だ、そんな事。
「他に頼める生徒がおらんのじゃ。
やってくれないか?」
あぁ、其れですか。
私には無理です。
「・・・折角のお誘いですが・・私には出来ません。」
は深々と頭を下げて謝った。
竜崎先生が驚いているのが解る。
なぜなら、普通この部活のマネージャーになってくれ、
なんて誘いを受けるのはめったに無いからだ。
なりたくてもなれない女子生徒が沢山居る中で
顧問じきじきに誘いがあったなら誰でも二言返事でOKを
出すもの。
それを、は断ったのだ。
「何故だね、他の生徒ににらまれるのが怖いのか?」
竜崎先生は諦める様子を見せない。
真剣な表情でそう問うた。
は視線を合わせていられなくて下を向く。
「其れもあります。だけど・・これは私的なことなので・・」
何故、態々
不二や手塚が居る所に飛び込んでいかなければならない?
これ以上に傷つくのが解っていてどうしてなれようか。
「・・・おまえさんがマネージャーになってくれれば、
あやつももっと傍でお前さんを守れると安心するんじゃないかね?」
「・・・え?」
驚いて顔を上げれば優しく微笑んだ竜崎先生の顔。
誰の事だか意味を取りかねて首をかしげる。
竜崎先生は意味ありげに違う先生の机に視線を送った。
其処には、何か怒られてるのか解らないが、
そう、彼が、
守るといってくれた彼が居た。
「・・英二・・」
「お前さんが傍にいてくれれば、もっと安心するんじゃないかね?」
そうだ、これ以上英二に迷惑はかけられない。
自力で何とかできるように強くならなければ
この先どうする?
自分で、何とかする力をつけなくては。
何時までも逃げていたらなにも変わらない。
は改めて竜崎先生の方を向くと、
少しためらいがちに頭を下げた。
「・・・宜しく御願いします。」
「・・・お前さんならそう言ってくれると思ってたよ。」
その日から、は新しいテニス部のマネージャーになった。
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