風化-05-
-The beginning of another story.-
解ってたんだ。
本当は。
ただ、知ろうとしなかっただけで・・
否、気付かないようにしてただけかな?
最初、初めて俺が彼女を見たのは
中等部の入学式の時かな。
桜が咲き乱れる季節。
彼女は校門の前で両親らしき人と緊張しながら
桜を見上げてた。
その姿から、
この子は系列で来た子じゃないなって解った。
皆顔見知りの奴ばっかりだったけど
彼女は見たことが無かったから。
青春学園は小等部から系列で
ほぼエスカレーター式で上がってくる。
皆知ってる顔ばっかりだった。
妙に大人びたその表情とか
仕草に、胸の奥が熱くなったのを良く覚えてる。
彼女と同じクラスになった。
名前はっていうらしい。
俺はもともと人懐っこい性格だったから
すぐにと仲良くなれた。
最初はさん、って呼んでたけど
一ヶ月もすれば互いに苗字を呼び捨てで呼び合うようになった。
の笑顔を見ると、
おれも笑顔になった。
が悲しいカオをすると
俺も悲しくなった。
といると
胸がドキドキした。
これが、何だかって
まだ、知りたくなくて。
運動が好きだった俺は
名門のテニス部へ入部した。
毎日毎日基礎練習やボール拾い。
コートなんか、使わせてもらえない。
でも、
やっぱり強い1年っていうのはいるらしく。
三年のどの先輩とも試合をやって
負けなかった奴がいた。
手塚国光。
試合をやってても
表情一つ変えやしない。
テニスの鬼、
そんな固有名詞がつきそうなほど
手塚は強かった。
俺も、手塚みたいになりたかった。
部活終ったあととか
休日にはストリートテニスで鍛えたり
身体の柔らかい俺にあったテニスの仕方を考えたり。
目標は、手塚だった。
何時しか1年という時期は過ぎ、
俺達は一つ上の学年――二年生になった。
男の体の成長というのは目覚しい物であって。
俺は10cmも身長が伸び、顔つきも、声も変わった。
身体の形も、テニスをしている、というようなガタイになったし
一皮向けたような錯覚にすら陥る。
ランキング戦が行われて
俺はレギュラーの座を獲得した。
それは『天才』と呼ばれた不二周助も同じ事で、
他にも『データテニス』を得意とする乾貞治や
『パワーテニス』の河村隆(タカさんって俺達は呼んでる)
そのほかにも、俺とプレイスタイルの相性が良いらしい
大石秀一郎、そして『次期部長』と謳われる
手塚国光
が新たなレギュラーとして固まった。
それから、だ。
俺とはクラスが見事に離れた。
その代わり、同じ部活だった不二周助と同じクラスになり。
彼とは気が合ってすぐに仲良くなった。
不二は人のそばにいて
でも、一番遠くて。
気付いたら、俺が不二と一番近い人間だった。
そして俺の目標だった人と
俺の、今まで近くにいた人が
コイビトになった。
其れを知ったとき、
どうしようもない失望感が俺を襲った。
酷い孤独が俺を包んだ。
まともに、彼女の顔を見れなくなった。
それでも
それでも。
部活が終るのを待っている彼女の姿が
凄く幸せそうで
如何したらいいのか解らない
感情がこみ上げてきた。
妙に大人びた2人は
端から見ても凄くお似合いのカップルだった。
俺の入る隙間なんか
何処にも無くて。
俺は、訳のわからない感情に蓋を閉め
心に、鍵をかけた。
それからずっとテニスに打ち込んで。
告白とかされたけど
今は部活がコイビトだからとか言って
誰とも付き合わなかった。
誰とも、付き合えなかった。
気を緩めれば心から溢れ出そうになる
その思いを、何ども何度も心の中に押さえつけて。
やがて季節はめぐり
俺達は、最高学年になった。
それと同時に、
が手塚のことを『国光』って呼ばなくなった。
手塚も『』って呼ばなくなった。
換わりに、手塚のことを『国光』って呼ぶ子が現れて
手塚はその子を『』って呼ぶようになった。
すぐ、わかっちゃったんだ。
が、手塚と分かれたって事。
しかも、手塚がを捨てたんだって。
と分かれたそのすぐあとに
彼女作ってるんだから
俺の目標は、手塚なんかじゃなくなった。
喜んで、いいのかな。
最悪だよね、俺。
蓋が少しずつ開いてくのが解る。
そして、幸か不幸か、
と同じクラスになった。
前にもまして綺麗になった彼女。
だけど、前みたいな輝いた瞳は無かった。
何時も、どこか遠くを見つめてる。
が窓際の席になったから
はいつも空を見上げてた。
そしてそれを見つめる誰かの視線を
俺は見つけてしまった。
不二。
不二も、彼女の背中を見つめてた。
俺は、何となく解ってた。
不二は彼女を手に入れるなら
どんな事もするだろうって。
朝練のない日。
何時も通りに俺が教室に行くと
教室の端っこで
誰かと誰かが机の上でキスしてた。
見慣れたその背格好。
色素の薄い髪の毛を持って
男子にしては髪の長い少年―――
一人しかいないじゃないか。
俺はあまりに驚きすぎて
「あれ・・・っ」
なんて間抜けな声を出してしまって。
そしたら、
押し倒されてた方の女の子が
ビクッと反応して
不二は突き飛ばされた。
それからがスローモーションのようだった。
不二が後ろの机にぶつかって
そのまま一緒に倒れこみ、
机の中身は床に散乱した。
押し倒されてたほうの女の子。
その姿は見覚えがありすぎた。
彼女は
間違いなく
だった。
「・・?!」
は目に涙を沢山溜めて
唇を腕で拭きながら床に座っている
不二を思い切り睨んでいた。
そしてギュッと目を閉じると
「やっぱり、アンタって最悪だよ」
そう言って、机の横にかけてあった
彼女の鞄を掴み取ると
そのまま俺の横を走り抜けていった。
「!」
俺は泣きながら出てゆくの後姿を
見つめるしかできなかった。
何があった?
只一つ明白なのは
不二が彼女をなかせたって言う事。
俺はその後、不二に口論したけど・・・
あんな不二は見たことが無かった。
本気でどうにかなってるよ、
そう言ってやったけど
「変?英二、君こそ可笑しくなったんじゃないの?」
首をしめられた後で
声も出なくて
否な汗だけが身体を伝う。
「英二だって、さん・・・のことが好きだったんでしょ?」
クスクスと、楽しそうに笑って
涙が出そうだった。
ずっと心に蓋をしてたのに。
「・・・っ、何でそれ知って・・・」
君は
本当に、楽しそうに笑うから
「手塚の隣にいたのこと
何時も見てたでしょ?凄い優しい目でさ。
それに、僕が気付かないとでも思った?」
嗚呼、嗚呼。
何で。
どうして。
そう、思うことしかできなかった。
「手塚は彼女を捨てたんだ。
傷ついた彼女を見捨てられるほど僕は酷い人間じゃないよ。」
どうして、
こんなにも冷たいのだろう。
酷い事云うなぁとか思ったことはあったけど
此処まで君が冷たいことをしたことなかったじゃんか。
「・・・不二・・・」
冷たい、蒼い瞳が俺を見下すように潅がれてた。
不二は、自分を失ってる。
何で
何で・・・・
このままじゃ、が可笑しくなる。
を守らなくては。
皆可笑しくなる。
そう思うのと同時に
教室には人が溢れ
俺は教室を飛び出した。
チャイムが鳴ったけど
そんな事に気遣ってる暇が無かった。
俺はこの先、不二の前で
手塚の前で
の前で
みんなの前で
ちゃんと笑える日が続くのだろうか。
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