風化-02-
-The beginning of another story.-









窓の外の桜は、ヒラリヒラリと
花びらを一枚、また一枚と切り離し
段々葉桜へと変化を遂げようとしていた。




季節は、もうすぐ春を経て初夏へと入ろうとしている。











「もう春も終わりなんだね〜。」







新学期が始まってまだ一週間と経っていない
ある日の放課後。

掃除当番で残っていたの親友、由起子が
窓の外を眺めながら、
教室の端っこを箒で掃いているにぼやいた。





軽く視線を上げて窓の外を眺めると、
入り込むオレンジ色の夕日に目を細めた。






「桜、散っちゃう。」







オレンジ色の日の中で。

ピンクの其れは小さく可憐に散っていく。








寂しいモノだね、と
は人事のように呟き
由起子に倣うように窓枠に肘をつけて
外を眺めた。






オレンジ色の光の中で
桜の散りゆく花びらが寂しそうに微笑んでいる。







は微かに微笑んで其れを見つめた。











「何かさぁ、こういうのって青春だね。」



由起子がポツリ、と呟く。
眠たそうな声だった。



「何で?」



は視線を桜の花に向けたまま、
感情のこもらない声で問い掛ける。





隣で由起子が目を擦るのが
横目で見えた。



「青春じゃん。
 オレンジ色の夕焼け、教室、学校の名前。
 それに・・・」


「それに?」



由起子が口篭もったところで
は首をかしげて由起子をみた。
由起子は困ったようにに笑いかけて
意味ありげな視線を校庭の方へ向けた。



由起子が口篭もらせた理由。


は小さく
あぁ、それね。
と呟いて苦々しそうに顔を顰めた。



「・・・御免、つい・・・」



由起子はの顔に視線を戻し、
静に謝る。
少し背の高い由起子はを見下ろす形になるのだが
何故かには、すまなそうに顔を顰める
由起子が自分と同じ高さにいるように見えた。



は首を小さく振って
箒を再び動かし始めた。





、本当にごめんって!」




「ヤダ。」



「えぇ――!!御免!!ホント御免!!!」




由起子が必死に謝ってくる。
はもう少し虐めてやろうと思った。


「じゃぁ、帰りにクレープおごってくれたらいいよ。」


其の言葉に由起子は
クシャッとした顔を見せた。

は其れが可笑しくて、
ニヤリとしてみせる。




「えー!高いよ!!無理。」


何だか本当に由起子がかわいそうに思えてきた。

は残念そうな表情を作ると、
冗談だよ、と笑いかけ
由起子に箒を渡した。




「これ、片付けといて。」


「ばっちおっけーっス。」


由起子はびしっと額の前で手を翳し、
敬礼したようなポーズをとって見せて
廊下へ箒をちりとりを持って出て行った。



は其れを見送ると、
自分の席に座り
鞄を自分の膝に乗せると机の中身を
取り出し、その中へ入れていった。










しばらく流れる静寂。



は校庭へ視線を向ける。


其処には、先程由起子が意味ありげに視線を向けた
モノがあった。






テニスコート。







パコン、パコンとボールを打つ、
独特の音が響く。


心地良いリズムだ。




其処にはもちろん、彼がいるわけで。



は無意識のうちに
彼、手塚を目で追ってしまう自分が
正直厭だった。









手塚はそんな事にも気付かないのか、
部室のある小屋の傍、ベンチのところで
ノートを手にした人と話をしている。






は視線を向けたまま
静に肘を突いて窓の外を眺める容をとった。









夕日が手塚の柔らかい髪の毛の色を
引き立てている。
部長らしい風格と人望。


三年になってさらにかっこよくなったのは
きっと年を重ねただけではないだろう。


彼女の存在があってのこと、だろうか。





「やっぱり、手塚は手塚だよ・・・」





苦しい想いを重ねるのも、
また事実。












帰ろ!!暗くなっちゃうよ。」



片付けを終えた由起子が戻ってきた。
は視線を由起子に移すと鞄を持って席を立った。





























2人が校舎を出る頃、
大分日は落ち、微かに暗闇が近づいてきている
雰囲気が合った。



と由起子はこのような空の様子を
「大人の空」
と呼んでいる。

由起子がこのような空を見ると
アダルトな感じがするからだそうだ。







「桜散るなぁ〜」






の一歩手前を歩く由起子が
両手を空に向けてクルクル回る。

は呆れたように其の後に続いて歩いていった。





「まだ花見してないよ!
 団子とか酒とか・・・」


「由起子。酒はまだ飲んじゃいけないんだよ。」


「ケチケチすんなさ。」

「・・・」



はふぅ、と溜息をつくと
由起子の頭をぺちっと叩いて
先へ走り出した。


後ろから由起子が追いかけてくる
バタバタという足音が聞こえる。





は思わず笑い出し、
そして校門へ来ると足を止めて振り返った。





「早くおいで〜」





クスクスと笑いを零す向こうで
由起子がケタケタ笑いながら走ってくるのが見える。


由起子は追いつくと乱れた髪の毛を
撫でつけるようにして手を動かした。




2人はそんな事をしながら校門を出る。



ピタリと由起子の足が止まり、
の腕を掴んだ。



は其の反動で転びそうになる。




「なに〜?もう、危ないじゃんか!」


振り返ったに、
由起子は顔を顰めて
2人の前方にある、其れを見るように
視線を動かしていた。


はその先を見る。








途端に、の顔から
微笑が消えた。































彼が、いた。



























綺麗な夕日の中で
幸せそうに彼女の手を自分の指を絡ませて
歩いていた。













つい、この前までは
の隣でそうしていた





手塚が。












の視界から其の2人を隠すかの如く
桜の花が目の前を埋め尽くすように
流れていった。



眺めればなんと綺麗だろう。
桜吹雪とはこのことだ。





は由起子をもう一度振り返る。





其の顔には、涙が浮かんでいた。


「・・・。」



寂しい?

うん。凄く、寂しい。

今までこんなに人を好きになったことはないから。


大好きな人は

もう、

アタシを見てくれない。










由起子の困ったような表情が
にはありがたかった。


由起子がいなければ
きっと泣く程度ですまなかった筈。





醜いアタシを
由起子は支えてくれてる。






「由起子、有難う。」









感謝するのは

何時もアタシばっかりだね。



















ふと由起子の背後の気配に
視線を向けるた。





涙が、止まる。









何故、貴方が其処にいるの。








は目を見開いて其の人物を見た。

其の人物は静に近づいてくる。
由起子の背後から。













「・・・不二君・・・」









何故、貴方が此処にいるの。









由起子も驚いたように振り返った。


其処には綺麗に微笑んだ不二がいて。






不二は由起子の隣に来ると
へ視線を潅いだ。





あの時の恐怖がを包む。









「御免ね、見るつもりじゃなかったんだけど・・・」






の心を見透かしていっているのだろうか。
言葉のような表情ではない。


むしろ、楽しんでいる?





が由起子の腕を引っ張り、
帰ろう、と呟き走り出す。

由起子は異常に怯えるを見、
そして不二を見ると眉間に皺を寄せて
静に睨みつけた。

不二はそれにニコリ、と微笑を見せる。








2人が走っていく姿を
不二はその表情のまま見送った。















が涙を見せた其の日から、
彼女の周りは彼によって
望まない変化を見せる事になる。


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