サ ヨ ナ ラ
サヨナラ、なんて簡単にいえるものだね。
青春学園の男子テニス部が強いのは有名。
天才が沢山いて、人望もある選手が多い。
放課後、誰もいなくなった教室で、
少女は一人窓際の席に座って外を眺めた。
此処からだと、その有名なテニス部の練習風景が良く見える。
オレンジ色に染まった校庭で、彼らは今日も頑張っていた。
「・・・・今はテニス・・・かぁ。」
少女の出した声色は、何の色も無い透明なもの。
視線は只一人を追って左右に動く。
少女は今日も一人。
只、愛しい其の人が自分を迎えに来るのをひたすら待ちつづけるだけ。
帰って、しまおうか。
ぼんやりとそんな考えが浮かんだ。
頬杖を崩すと、がらりと教室のドアが開く音がした。
「ごめんね、帰ろう。。」
そして、疲れているのに優しくて甘い響きを持った声が自分を呼ぶ。
身体が、ビクリ、と反応した。
一瞬でも先に帰ろうとした自分が腹立たしい。
彼と自分は同じクラスなのだから、
先に帰ったなら明日問い詰められるのは目に見えてる。
「お疲れ様・・周助。」
は気だるそうに席から立ち上がると自分の名を呼んだ人に視線を向けた。
そのゆったりと見えた姿に周助は満足げに微笑んむ。
あぁ、綺麗。
ねぇ、貴方のその姿。夕焼けの色に染まって、酷く綺麗だよ。
アタシ、貴方を愛してる。
でも、これ以上近くにいられない。
アタシが壊れちゃいそう。
何故かすっかり麻痺してしまった頭がそう感じていた。
アタシは、ずっと考えていた言葉を、 紡 い だ 。
「周助、別れよう。」
夕焼けが、酷く眩しかった。
その光の中で、周助の表情に、驚きと恐れの色が滲み出した。
「・・・なんで・・急にそんなこと・・」
周助は一歩一歩アタシに近づくと、震える声で呟いた。
あぁ、そんな姿ですら愛しい。
其の恐れの色が出た周助に、アタシは不適に微笑む。
正しくは、引きつっていたものだけど。
「今の・・・周助はアタシを見てない。テニスで一杯なの・・。」
何時の間にかぐっ、と握られた腕が悲鳴をあげる。
テニスをやってる彼だから、力も強くて。腕が折れそうだった。
「い・・やだ。」
あんなに欲した少女。やっと手に入れたのは一年前。
その時は、自分を失いそうなほど嬉しかったのに。
周助はを掻き抱く。力いっぱい抱きしめる。
やっと捕まえた蝶々が逃げる恐怖を消し去るように。
やっと捕まえたこの少女を逃さないように。
「許さない。僕は許さないよ。絶対に僕の傍から離れる事を・・・許さないよ。」
震えるその声には小さく笑った。
そして、周助の力が緩んだ一瞬を狙って力いっぱい突き放す。
「何・・・言ってんの?」
泣かない。絶対泣かない。
「自分勝手なこと・・・云わないで。」
もう、終わりにするの。
苦しむ心が悲鳴を上げきれなくなってるの。
狂わないうちに。
「厭だ・・・僕から・・離れていかないで・・」
周助は首を振って震える腕を伸ばした。
は其処から素早く逃げ出す。
「ねぇ・・・周助。愛してる・・。」
今でも。
これからも、きっとずっと。
「でも・・・先にアタシを一人ぼっちにしたの・・・アタシを置いて行っちゃったの・・・周助なんだよ・・・」
涙なんか出てこない。だってずっと泣いてた。
一人で寂しくてずっと泣いてた。
だから、もうアタシの涙は枯れちゃったの。
「アタシが寂しい時も、アタシが苦しい時も。
助けて欲しかった時も。
貴方はアタシよりテニスを優先してたじゃない・・・」
アタシはずっと一人だった。
貴方という存在がアタシから友達も奪っていったのに
アタシは友達より貴方を選んだのに
貴方は
アタシより
テニスを選んだじゃない。
「 サ ヨ ナ ラ 」
そのまま教室から飛び出した。
周助が酷く切ない声で叫んでるのが聞こえる。
行くな、行かないで
僕の傍から消えないで離したくない
愛してるのに。
周助は一人、その場で泣き崩れた。
ねぇ、ごめんね。
酷い女でごめんね。愛してるから、寂しさに耐えられなかったの。
ご免ね。サヨナラ。