お年玉













、何時もマネージャー業やってくれてありがとな。」


「は?」















今日は2005年1月1日。
つまり元旦。


大晦日からの徹夜明け(もちろんTV見たりしてた)
で、うっすらと眠り始めた午前7時頃
けたたましく鳴った携帯に起こされ
不機嫌上等な状態で部室へと歩いていく。





「はい?」
『おう、元気か
「元気も何も。用は何、こんな時間に非常識。
 てか眠たい。」
『まぁそう焦るな
 これからすぐに部室に来い』
「は?焦ってねぇし嫌だよ。何で年明け早々まだ冬休み中なのに」
『あーん?聞こえねぇな。
 じゃあな。サボんじゃねぇぞ!』
「あっ、ちょっと跡部・・・」
『ツー・・ツー・・』
「・・・・」




と、まぁこんな具合に
無理やりに呼び出されてきたので
もちろんは不機嫌極まりない状態にいる。


無理やりに呼び出されたのなら来なければいいのだが
もしかしたらレギュラー陣も呼ばれているかもしれないので
マネージャーである自分が来ないのはまずいだろうと考えて
部室に来た。







微かに積もった雪を見上げて
部室のドアをノックする。

返答は無かった。







は不思議に思いつつも
ドアを開けて中に入る。
外と同じように冷たい空気がほっぺたを撫でた。




「おはようございます。えーっと・・・跡部?」




返答が無いのと同じように
部屋の中には誰も居なかった。
レギュラー専用の部屋なので
平の一年生や二年生は入ってこれない。
はその一年生達を探そうと思って
一度戸を開きかけたが
良く考えれば今日は元旦なのできっと学校に来るのは
男子テニス部のレギュラーくらいしか居ないだろう
という考えでまとまり、は開きかけた戸を閉めて
中に戻った。






「に、しても寒いよな・・」





いくた部屋の中とは言え
コートを着ているのに肌に染みるように寒い部屋。
息も白く濁る。


こんな所でミーティングなんてやってられない。




はそう思うと
部室に取り付けられた暖房ヒーターのスイッチを入れた。





程なくして其処から暖かい空気が流れ出す。
流石跡部。
高級なもんをポイと部室に恵んでくれる。
監督も何だかんだいって結構お金持ってるしね。









はリモコンを握り締めたまま
暖かい風が丁度良く流れてくる位置にあるソファに座った。
革張りの上等なソファはの疲れた身体には心地良かった。







うつらうつらと瞼が重くなってくる。
何度も首を倒しかけては現実の世界に引き戻される。
この、何時誰が入ってくるかも解らない部屋の中で
眠気を堪えるというのは、一種、拷問に近かった。




三途の川の向こうで
おじいちゃん(まだ健在)が笑顔で手招きしている。
もう笑顔しか浮かばない。


ヤバイ。マジで死ぬかも。










「___・・・おい、




もうどうにでもなれ、と
半分飛んでいたに誰かが話し掛ける。
同時に数回頬を叩かれた。



「った」



意識が半分飛んでいた身体に
叩かれた微弱な痛みで意識が戻ってくる。
それと同時に自分に声をかけた人物の顔を確認して
思い切り不機嫌な声を出してみた。







「遅い。あほべ」



「あぁん?」




あほべと呼ばれた跡部はムカッとした顔を浮べ
腕を組んでを見下ろす。



見下ろされたも負けじと
不機嫌な顔を向けた。





しばらくにらみ合いが続いた後
跡部は諦めたようにふぅ、と息をついた。
そしての斜め前に立ったまま
ちょっとポーズを決める。


はそのポーズをとった跡部に
首をかしげた。
跡部は気にするどころか少し気取っても見せる。





「まぁ、今日は年明けだ。
 2005年の初めからお前ともめるのも嫌だしな」




何が言いたいんだ、とでも言いたげな
の視線に、跡部は目ふせて
フ、と笑うと、あの試合の時に見せたようなポーズをとり
何処からか「氷帝!氷帝!」のコールが流れてきそうな
得意げな顔をした。




、何時もマネージャー業やってくれてありがとな。」


「は?」





跡部の第一声はそれだった。


は素っ頓狂の声を上げる。
さしずめ意味がわからないといったところだろう。





そのにもやはり跡部は気にとめず
さらにに近づく。







「え?は?意味がわからな・・」



の座っているソファに両手をついて
の真正面に立ちはだかる跡部は
美しい笑顔を向けてさらに続けた。





「だから、俺からお前にお年玉だ。」




お年玉?と首をかしげる
跡部はそれなりに満足げに
さらに近づいた。




「ちょっと。跡部近い。」



。否、


「はい?」




「聞いて驚くなよ」





態々名前を呼びなおして何をするんだろうと考える
跡部は咳払いを一つ。









「お年玉は、この、俺だ」






「・・・・は?意味がわからな――・・・」







「おう、跡部やないか。ん?もおんのか?」






お年玉はこの俺だ、とか訳のわからない事を言った直後
顔を近づけてきた跡部の頭に
ガッ、と大きな手が圧し掛かる。



それと同時に聞こえたのは独特の色っぽい声で
喋る大阪弁だった。



大阪弁といえば、ひとりしか居ない。







「・・・忍足?」






は跡部の頭で見えないが
その頭に手を置いていると思われる忍足に声をかけた。
その瞬間跡部の頭は離れ、換わりに物凄く不機嫌な顔をした
跡部が、微笑む忍足の隣にいた。


恐らく、頭を引っ張られたんだろうな。





はそう思った。





「よう、やっぱか。 
 コイツに妙なことされてへんよな?」




「ッチ、邪魔するんじゃねぇ」





は曖昧に笑った。
早く帰りたかったし、眠たかった。






その時、部室の扉が開いて
寒い風が入ってきた。





「あれー、忍足に跡部にじゃん。皆どうしたの?」




そう言って部室に入ってきたのは
オカッパがマークな岳人とジロー。
軽く睨み合っていた忍足と跡部は驚いたように2人を見る。
もソファに座ったまま虚ろな目を向けた。




ジローは眠たそうな目でを見つけると
ぱぁ、と顔を輝かせての隣に座った。
そしてもう一眠り、と呟くと
瞬間、寝息を立てていた。



も思わずその眠気にやられそうになった。






だけど、次にまた寒さが身体を撫でて
現実に引き戻された。
そのたびに、眠いのを削がれてイラつきがたまってくる。







「お、何だ皆揃って」



とをあけたのは宍戸だった。
何故かその後ろには日吉と長太郎もいる。




「跡部がを襲おうとしたってん!
 それで俺がを守ったんやで」



そう切り出した忍足に
跡部は噛み付く。



「アーン?何言ってやがる、
 俺はただにお年玉を・・・」



「オイオイ、ちょっとまてよ跡部。 
 お前何時から呼び捨てにしてんだよ」




入り口にいた宍戸が跡部に食って掛かる。
日吉はすでに暖かい所に移動しており、
長太郎も日吉と同じように暖かい所に行こうとしていた。




「あ、ジロー先輩。 
 ちゃっかり先輩の隣取ってるし」


長太郎がむっとした顔で言うと
の隣を狙っていた日吉が長い前髪の下から
スヤスヤと寝息を立てるジローを睨んだ。




「お年玉?!何其れ!俺にもくれよ」




お年玉という言葉にくっついたのが
忍足の隣にいた岳人。
さりげなくに近づく。




「あぁ?やるわけねぇだろ。」




跡部はその行動する岳人を睨みつける。





は眠たいのを妨害されて
怒りが蓄積されてきていた。
そして目に映るのは、何時の間にかいた樺地。






は樺地に向って手招きをした。













「ってか何でお前とが二人っきりなんだよ」


「どうせ電話で呼び出したんやろ。むっつりなことすんなぁ」

「結構卑怯ですね、跡部先輩」



「うるせぇ。お前等だって何で此処に居るんだ」



散々嫌味を言われた跡部は開き直って
向かい合った。



「俺はただ部室に忘れもんしただけや」



忍足がちょっとつまって答える。
その答え方に跡部はニヤリ、と笑った。




「忘れ物って何だよ?
 別に今日じゃなくてもよかったんじゃねぇのか?」



「そうだな、何で今日なんかに」



今度の集中攻撃にあたった忍足は
グッと顎を引くとねっころがっている岳人に視線を向けた。




「岳人はどうなんよ」



「え?俺?」




今度は一斉に岳人に目を向ける。
岳人は思わず生唾をゴクリと飲んだ。

それからジローを叩いて起こそうとするが
起きなかった。
恐らく、タヌキ寝入りだろう。





「俺は・・・・」




そう言って言葉を濁す岳人。
目に宍戸が映った。





「宍戸は?」




たらい輪回しにされる質問に
皆が皆牙をむく。
視線を一気に向けられた宍戸は
日吉と長太郎に視線を送った。




「俺らは・・・か、監督に新年のあいさつを・・・」




「別に一人でもええんとちゃうん?」


「何で3人揃ってんだよ、アーン?」


「もっと堂々としてミソ」



答えれば答えたで突っ込まれる。


サドンデスマッチ。











そんなこんなを繰り返すうちにすっかり熱の上がった部員達。
テニスラケットを持って勝負、となった。





そして跡部が百合に向って


「この勝負で勝ったヤツには・・・」




と言いかけたとき。


眠たそうにしていたの姿は何処にも無く。




そこで、初めてがいない事に気付いたメンバーは愕然とお互いを見る。





「・・なぁ、樺地いねぇよな」




ぽつり、と呟く岳人。
全員が目を見開いてそして
空をみた。









さかのぼる事30分前。





眠気とイライラが頂点に達した
樺地におんぶしてもらい、家まで帰っていった。
途中、榊監督に出会い
事の成り行きを話をしたところ、
樺地ごと監督の車に乗せられて各家に送られていき、
そして車の中では監督から特別、
2人だけに『お年玉』が与えられた。
金額は其れ相当の物だったが、
と樺地は快く其れを受け取った。




そして、そのことを部員達が知るよしもなく。









こうして新年の幕開けは
氷帝軍団の悲痛な叫びから始まったという。