風化
すっかり夕日に染まった
学校帰りの道。
「国光。」
アタシは彼の後ろを歩きつつ
彼の名を呼んだ。
国光はアタシの声を聞くと
首だけ少し動かしたけど、
輪郭が少し見えただけで表情とか
横顔すら見えなかった。
その行動が彼にとっての返事だと
アタシは良く知ってる。
「・・・・何でもない。」
そう言ったら、
国光はまた視線を元に戻して。
雰囲気で分かるんだ。
今、ウザイ女だと思ったでしょ。
そう云おうと思ったの。
でも、アタシの声は出なくて。
国光に見えないことを知ってて
口で形を作っただけ。
『アタシ、ウザイ女?』
って。
今じゃ、いつも一緒にいられることすら苦痛。
最初は全然こんな事無くて。
やっぱり、最初の気持ちってこんなに長く続かないものなのかな。
「・・・国光。
明日でアタシ達、付き合って二年になるね。」
アタシは、まだ此処にいるよって
そう示したくて云ってみた。
そうしたら国光は
「そうだな」
とだけしか応えなくって。
ほらね、だから云ったじゃない。
『アタシ、何よりも国光が好きだから、
アナタにとってウザイ存在になるかもしれない』
付き合い始める、その瞬間に。
あの時、今みたいな夕日が、
とても温かくて、木々が紅葉し始めたそんな時期だったよね。
アタシは嫌いになられるんだったら
初めから付き合いたくは無かった。
だから、最初にそう聞いた。
そしたら、
アナタは
笑って―――――
「・・・・云ってくれたじゃない。」
ピタリ、と自分の前を歩く
国光の脚が止まった。
そこで初めて自分が声を発してしまった事に気付く。
でも、国光はこちらを見なかった。
声だけ。
「・・何をだ。」
本当に、ウザそうな
気だるい声。
あぁ、泣きそう。
どうしよう?
こんなに苦しい思いをして
それでもアナタが好きだなんて。
気が付いたら、
アタシは彼の背中に抱きついていた。
「国光、アタシ云ったよね付き合う前に。
『アナタにとって、ウザイ存在になるかもしれない』って。」
国光の、鼓動が聞こえる。
広くて逞しい背中に
アタシは頭を押し付けて
存在を示す事しかできない。
「そしたら、国光云ってくれたよね。」
喉の奥で、
何かが叫んでる。
冷たくて
熱くて
苦しいモノ、が。
『俺がを愛しているから
俺がにウザがられるかもな』
あの時の嬉しさ、
忘れてない。
忘れられるわけが無い。
「国光が云った事、忘れた?」
アタシは、試すようにそう聞いた。
流れる風と
心地の悪い、少しの静寂。
・・・困ってるね、国光。
忘れて、しまったんでしょう?
アタシだって馬鹿じゃない。
分かってる。
アナタが、アタシを見ないようになった
その瞬間まで。
国光は、呼吸を一つ、
大きくはいた。
それは、俗に言う溜息、と言うもので。
「何を言っている、
歩きにくい。離れろ。」
―――酷いね、アナタは。
期待していた言葉は、
もっと優しくて、
甘い響きを持っていた、筈なのに。
自分が離す、というより
突き放されたという言い方のほうが正しいのかもしれない。
ねぇ、何時から
風化してしまったんだろうね、
あの時の想いは。
あんなに、幸せだった
あの時の想いは。
国光は、前髪を煩わしそうに手で横に流すと、
また歩き始めた。
アタシは、涙でもう、
その逞しいと思った背中を
はっきりと見て取る事ができなくて。
脚なんか、動かなくて。
「・・・国光。
国光はが好きなんだね。」
最後の、言葉になるように。
酷くて、ウザイ女を切り捨てて。
――――御願い。
其の言葉に、
国光は驚いて振り返ろうとする。
「――な・・」
「振り返らないで!!!」
は思い切り叫んだ。
此処は幸い、家が無い。
学校の裏道だから。
「ずっと知ってたんだよ?
国光が、同じ委員会になってから
のこと見てるの・・・ずっと・・・」
御願い。
振り返らないで。
「、最近可愛くなったもんね。
性格も、凄く、可愛い、し。」
泣き声になってきて
言葉が上手くつむげない。
「知ってる?国光。
、ね、アタシと国光が付き合う前から・・・
ずっと好きだったんだよ?」
の心を知りながら、
アタシは国光・・・
手塚国光を愛せずにはいられなかった。
国光が、アタシを一瞬でも愛してくれた事が
アタシを醜い、ウザイ女へ変えて行った。
「ねぇ、くにみ・・」
「黙れ!!!!!!」
は驚いて目を見開いた。
ずっと我慢していたんだろう、
手塚は大声を出していた。
「俺が、誰を好きになろうと自由だろう!
そういうコトを口にするような奴が
俺は嫌いなんだ」
後姿が、震えていた。
心底怒っているのが良く分かる。
「はは・・・ほらね、国光。
アタシ、こういう女なんだよ?」
“嫌いだ”
其の言葉が一番怖かった。
自分で分かっていたはずなのに。
どうして、こんなに涙が出るの?
どうしてこんなに、心がちぎれるように痛いの?
アタシは、
国光を愛しすぎた。
「だから、別れよう。
アナタにウザイと思われるのは
辛いし、アナタの為に、アタシの為に。」
終らせるのはアタシからが良い。
始まりがアナタなら
終わりはアタシが終らす。
惨めな女にはなりたくは無いから。
「あぁ、そうだな。」
国光は、振り返る事無く
歩き始めた。
それが、アタシとアナタの関係が切れる
その瞬間だった。
――――肩の荷が下りて、楽になったでしょう?
国光。アタシは、アナタの重荷にはなりたくなかった。
「じゃぁね、と頑張って下さい。
・・・・・手塚君。」
そして、アタシは去っていく国光―――手塚
とは反対方向に歩き始めた。
一歩一歩離れるごとに、
心の穴が、大きく抉られるように巣食っていった。
その日から、
は国光を『手塚君』と呼ぶようになり、
また、手塚もを『』と呼ぶようになった。
学校で、と国光が
互いの名を呼ばなくなり、
換わりに
『国光』と『』
そう呼び合う2人が誕生したのは
『国光』と『』
そう呼び合う2人が消滅してすぐのことだった。
2人の思いが風化してしまう二年前、
彼らはまだ、幸せな未来を信じていた。
end
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手塚といえば、結構甘い話が多いので
悲恋を目指しました。
・・・・痛すぎ。
何、これは・・・。
もし、此処で手塚のイメージが壊れたとしても、
アタクシはこの作品、自信をもってUPいたしました。
この作品は、不二夢に続く予定です。