あぁ、この空は何故遅いのだろう
彼女は、何もしていない。
それなのに、何故こんな事になる?
俺はある日捕まった。
親友だったジェームズとリリーそして沢山のマグル達とピーターを
゛殺した"
という罪で。
真実は、誰も知らないだろう。きっと、探しもしない。
だって、その"犯人゛は此処に居るのだと信じているから。
リーマスも、俺の恋人の――恋人だったも。
ピーターだ。
ピーターが裏切ったんだ。
アイツが、弱かったアイツがヴォルデモートの臣下に居たなんて。
誰も知らないしそうも思っていないだろう。
俺は、ハリーの両親を殺した。
秘密の守人を交代して。
全ては、上手くいくはずだった。
ヴォルデモートは俺を追って、
真の守人を追うことはしないだろうと
そう、確信していたのに。
守人が
裏 切 っ た 。
カチリ、と小さな音がして近くにある小さな時計は夜の0時を指す。
この瞬間を境に、シリウス・ブラックは無実の十三年目をアズカバンの監獄に刻み込んだ。
外はまだ暗い。
遅い。何もかもが遅い。
時が経つのも、夜が明けるのも、空が変化するのも。
全てが鈍く遅い。
それなのに、不本意にも空は綺麗だ。
闇の中に、一つ一つ光を放つ小さな星の群れ。
三日月は、一際大きく眩い光を放っていた。
ふ、と微笑みがこぼれる。
本当に、不本意な事だ。
「シリウス・ブラックが脱獄した?」
それは、ちょうど十三年目の出来事だった。
新聞やTVでは我先にと言わんばかりに大きく報道しマグルも、魔法族も
皆が皆、自分たちの町に居るのではないかと神経を尖らせている。
その知らせはリーマスにも、にも届いた。
「リーマス。シリウスが・・・・」
「・・・・・そうだね・・・」
は、知らせを受けたその時にリーマスの家へと訪れていた。
その為か、夜の2時を回っていた。
彼が見上げたのと同じ空の下。
目の前には温かそうなホットチョコレート。
一口飲むと、口の中が甘ったるく痺れた。
「、君はシリウスが脱獄した事を知っているんだね?」
リーマスはゆっくりと、の瞳を真直ぐ見て問い掛けた。
はカップをテーブルに置き、しばらく湯気の立つそれを見ていたが、
「・・・・・・驚いた。彼が、あの2人を殺したと聞いた時と同じくらいに。」
やがて、そう呟くように応えた。
「・・・・・・・そう・・・」
リーマスは、俯いたままのに小さく応える。
空は、明けの光を放ち始めていた。
ただ、時間が過ぎてゆく。
ゆっくりと、憎らしいくらいに静に。
「シリウスが犯人だと、そう思ってる?」
リーマスが、長い沈黙を切った。
静過ぎるその部屋にリーマスの優しい、だけど疲れきった声は
心の傷に酷く染み込んでいった。
す、とが顔を上げる。
そのまま、無言で窓辺へと歩いてゆく。
黒い、セミロングの髪がゆれた。
リーマスは、ただそれを見つめていた。
空は、もう明るくなり始めていた。
「・・・・・・・そんなの・・・・・・・・」
は窓のレールに手を乗せる。
静に、心地良い風が髪を流した。
泣き出しそうな明け方の空は、とても眩しい。
-----------誰か、私の変わりに
彼を助けて。
優しい、優しいあの人を。
『 知らないよ 』
何十年ぶりに会った彼女は、もう、動かなくなった。
俺をかばって吸魂鬼に接吻をされた。
身体は生きていてもその中にあるべき魂は無い。
「シリウス!!」
吸魂鬼を追い返したハリーとリーマスが駆け寄ってくる。
彼の腕の中にはぐったりと身体を横たえる、
ずっと傍に欲しいと望んでいたが居た。
逢いたいから脱獄したのに。
ようやく、今日会えたのに。
「・・・・・シリウス・・・・・・」
リーマスとハリーは、シリウスの後ろでただ立ち尽くしていた。
優しい優しい彼は涙を流す事も出来ずに
優しい瞳を閉じてしまった彼女を見つめる。
何とも言えないこの重たい雰囲気に、
誰もが光を、答を求めて喘ぐのだろうか。
゛光をくれ"と・・・・・・。
「・・・・・、君は・・・・
俺を信じていてくれたんだ・・・・?」
シリウスは、ぐったりと、
しかし何処か微笑んでいる彼女に問い掛ける。
彼女からの返答は――――――――
―――――――無い。
シリウスはそっともう動く事の無いの唇に己のそれを重ねた。
抜けてしまった魂を吹き込むように。
それから約一ヶ月後の雪の降り積もる寒い日に、
・は眠るように息を引取った。
学生の頃と何ら変わりない、
幸せだった時のあどけない姿のまま。
『 知らないよ 』
『・・・・・・・・・・・・』
『でも、シリウスは人を殺めたりしない。
ジェームズも、リリーも。』
『・・・・どうして、そう考えるんだい?』
『・・・・・・・・解らない・・・・・。
ただ、私は今でも彼を・・・・・シリウスを・・・・・』
『・・・・・・・愛してるもの。』
一つの墓の前に置かれた白くて小さな華は
彼女の生前の姿を思い出させる。
とても見晴らしが良くて海が見える丘の上。
十字架の形をした其れは、其の場所に意外にも自然に佇んでいた。
『・・・シリウス。
彼女は・・・は、一日も君を忘れた事は無かったんだ。』
リーマスが、何時か云っていた。
何時?
が死んだ時かもしれない。
「・・・・・・・・俺だって・・・・・・
の事を忘れた日は無かった・・・・・・・」
一筋伝った涙は、
もう動かない彼女に送った。
涙の幕の向こう、見上げた空は遅かった。