手を離さないよ。君を放さない。
僕は、臆病な人間だから。
目を閉じる。
それから肺いっぱいに空気を吸い込む。
両腕を広げて空に顔を向けて。
塩の匂いとザザン・・・と波打つ
心地良い音が浸透してくる。
それから、ゆっくりと腕を下ろして
ゆっくりと目を開いた。
「海、綺麗だ。」
ぽつり、と呟いた言葉は
何処か寂しげな色をしていて
何処か憂いを帯びた幸せを含んでいて。
隣にいる君を、見つめた。
「うん、綺麗だね。
夕焼けの色に染まってる。見て、リーマス。」
彼女は嬉しそうにはにかむと
リーマスのシャツの端っこを摘まんで
夕焼け色が鮮やかに写った海と太陽の境界線を指差した。
リーマスはふ、と微笑んで
その指先を見た。
波打つ海の境界線。決して交わらない太陽と海。
「・・・神秘的だね。もそう感じた?」
リーマスは微笑んだままの肩を抱く。
は恥ずかしそうに微笑むと
「うん。でも、綺麗だと感じたよ。」
そう応えた。
いつのまにかあたりは闇に包まれていて。
リーマスとが綺麗だと言ったあの夕焼け色に染まった海は
いまや闇の漆黒に染まってしまった。
2人は静で波の音を聞きながらただ遠くを見つめる。
「明日は・・・満月なんだね。」
は白くて小さな貝殻を手に乗せてそれをぼんやりと見ていた。
リーマスはのほうを見ずにただ「うん」とだけ応える。
「また出かけるのね。」
かちゃん、と白い貝殻が砂の上に落ちた。
のこげ茶色の髪の毛が、ふわりと風になびいた。
リーマスは、何も云わなかった。
代わりに俯く。
ほんの少しだけ、感傷傷に浸っていたかった。
リーマスは静に立ち上がると波の寄せては引いてゆくリズムに目を閉じて
そのままゆっくり歩き始めた。
真っ暗な闇で、何も見えない。
腕を前に突き出してゆっくりと歩いてゆく。
はその様子を、
黙って見つめた。
しばらく歩いて、リーマスは立ち止まった。
鷹色の髪の毛が、海の方から吹く潮風になびいて
綺麗だった。
そう、綺麗だった、のに。
卒業してから急激に彼は老けてしまった。
自分が綺麗だと云った鷹色の髪の毛はいつのまにか白髪が混じってしまって。
元からよくは無かった顔色はますます悪くなった。
は立ち上がり、静に海とリーマスを眺めた。
「・・・・・本当は・・・・
人狼なのでしょう・・・・?」
は無心で呟いた。
その言葉に、リーマスは驚いて振り返った。
そして、なきそうな表情を浮かべると
海の方へと歩き始めた。
ぱしゃぱしゃと、徐々に深くなる海に
静に身体を進めて行く。
その行動に、
は驚いてリーマスを追いかけた。
「・・・っリーマス!!!」
は咄嗟にリーマスのシャツを掴んだ。
「離せっ!!僕は・・・・もう!!!」
リーマスはを振り切ると、
どんどん海へ入っていった。
深さは、腰にまで来るほど深くなってしまって。
もう、動きが取れないほどのところまで進んでしまった。
「リーマス、駄目だよ!!!」
はリーマスを掴む。
「ジェームズも、リリーも、ピーターも死んだ!!!
シリウスも僕らを裏切っていた・・・!!!
生きていたって、何もならないじゃないか・・!!!離して!
離してくれよっっ!!!!!」
「リーマス!!!」
は渾身の力でリーマスを抱きしめた。
身長差で云うと抱きついてる形になるのだが。
「・・・リーマス・・・・あたしがいるよ・・・・」
リーマスは海に涙を落としていた。
ぽつり、ぽつりと。
静に、流れるままに。
「・・・・・・・」
「あたしがいる、リーマス。
貴方が死ぬなら、アタシも死ぬ。」
は涙でぐしゃぐしゃになった顔を向けた。
見上げたリーマスの顔も、ぐしゃぐしゃになっていた。
リーマスは静にを抱きしめた。
苦しいほどに、でないと、寂しすぎて死んでしまいそうだから。
「僕は、君を失うのが怖い・・・・。」
恐怖の叫び。大切なものが一気になくなってしまった自分達の。
「リーマス、私はいなくならないよ、
ずっと、ずっとそばにいる・・・・・だから・・・・死なないで・・・
あたしを、一人にしないで」
海に流されそうになっても、貴方を抱きしめていたい。
ずっとずっと。
「、愛してる・・・・
愛してるんだ・・・・。」
リーマスは掠れた切ない声で呟く。何度も、何度も。
も其れに応えるようにリーマスを抱きしめた。
「君を・・・離せない。
僕は弱くて・・・・君無しで生きてゆく勇気も無い・・・・」
“だから、僕の傍から離れないで”
君を、離せない。
僕は一人になれない。
大切なものをもう失うのはいやだから
僕が君を守るから。
だから・・・・・・